2021年11月15日 コラム

自分で事業プランを作らなくても投資家の知識を利用すればいい

【連載コラム】エンジェル投資家が見ている世界


投資を通じてスタートアップや起業家を支援するエンジェル投資家。この連載ではエンジェル投資家のリアルな視点や判断軸をインタビュー形式で語っていただきます。今回は、ベンチャー・スタートアップ転職専門のエージェント「キープレイヤーズ」の代表取締役であり、現在55社以上への投資を行っている高野 秀敏さんにお話を伺いました。


インタビュイー:
株式会社キープレイヤーズ
CEO/代表取締役 高野 秀敏さん
●プロフィール
1999年に株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)に入社し、転職事業に従事。2005年に株式会社キープレイヤーズ設立。これまでに4000社以上の経営者と交流を持ち、1万1000名以上の個人のキャリアカウンセリングの経験を持つ。2009年よりエンジェル投資家としての活動を開始。現在55社以上に投資し、4社の上場経験もある。Youtubeチャンネル「高野秀敏のベンチャー転職ch」を運営中。

「キープレイヤーズ」について

ロジカルに説明できない“直感”がマッチング力の源泉

――キープレイヤーズを立ち上げた背景を教えていただけますか?

可能性がある会社と、可能性がある人材をつなぐ事業をやりたくて会社を設立しました。前職ではインテリジェンス(現・パーソルキャリア)で転職事業に携わってきて、データベースでマッチングする仕組みを作ってきました。しかし、スタートアップ・ベンチャーと個人が秘めている可能性をデータ分析で一律に導き出すことは難しく、“発掘”によるマッチングによって支援するビジネスをしたいと考えたのが始まりです。

スタートアップの中でも、とくにシード・アーリー・シリーズAくらいまでのラウンドでは人材に関する課題が大きい現状があります。そのため、個人のポテンシャルを引き出すマッチングがより重要になってきます。

――他の転職エージェントとの大きな違いは何でしょうか?

量をやっているということですね。22年間、転職ビジネスに関わってきた中で、4000社以上の会社と1万1000人以上の個人の相談にのってきました。上場に向けた支援している会社は143社あり、そのうち4社には投資もしていて実際に上場を果たしています。そうした経験のなかで磨かれてきた視点や感覚が、大きな違いになっていると思っています。

もう一つは、SEOとSNSのどちらもやれることをやり尽くしているということ。現時点でTwitterは4万2000人、Facebookは1万2800人、LinkedInが2万6000人、YouTubeは1万1000人にフォローしていただいています。キープレイヤーの発掘もSEOやSNSによるところが大きいですし、企業側からするとPR効果につながるなどの利点があります。

――高野さんの紹介はマッチング力が高いという評判を聞きました。どのような工夫をされているのでしょうか?

私が投資している株式会社リーディングマークで「ミキワメ適性診断」というサービスを提供しているのですが、代表取締役の飯田さんから「高野さんが紹介する人をミキワメで適性診断すると全部ぴったり合っているんですけど、どうやって選んでいるんですか?」と聞かれたことがあります。

でも、私自身はこの部分で特に努力などはしていませんし、ロジカルにも説明できません。前職時代にキャリアコンサルタントのテストを受けたことがあるのですが、適性が100%合致しているという結果で、とても珍しいことだといわれました。とにかく量はやってきましたが、「生まれつき足が速い」というのと同じで先天的な能力であり、単純にそれが得意なのだと思いますね。

データベースのマッチングは分析をもとに弾き出すので誰でもできますが、ロジカルに説明できない直感的な部分が、じつはマッチングを左右すると思っています。なので、この業界で長くやっている方は、私と同じタイプが多いと思います。完全に属人的なものになるので、模倣が難しい分野といえるでしょうね。

――これまでマッチングしてきた中で、印象に残っているエピソードがありましたら教えてください。

紹介した人が、昇格して社長になったというケースはたくさんあります。転職後に起業して、上場を果たしたというケースもあります。あとは、たまたま紹介した人同士が社内結婚したという話も数組ありますね。私の専門外ではあるのですが、当人からすると「高野さんの紹介で知り合った」ということで意気投合し、最終的にそうなるようです(笑)。

――HRのプロとして、とくに大切にしていることを教えてください。

HR領域に限定したことではなく、人の役に立ちたいと思って仕事をしています。“1日100善”を意識しながら、圧倒的な量をやるというのが私のスタンスです。すべての活動がそこに紐づいていると思います。

エンジェル投資家として

投資するときの判断軸は“経営者の巻き込み力”

――多数の企業に投資をされていますが、投資先とはどのようにして出会うことが多いのでしょうか?

現在の投資先は公的には55社といっているのですが、VCにも投資しているので実際に投資している企業はもっと多くなります。投資先と出会うきっかけは、もともと知り合いだったり紹介されたりというケースが多く、次いでSNSから連絡をいただくというパターンでしょうか。

――投資を決めるときの基準・判断軸を教えてください。

顧客や株主、社員を巻き込んでいく、経営者の巻き込み力です。上場した後も事業を成長させるには、既存事業を伸ばす・新規事業を作る・M&Aをするの三択になります。巻き込み力がないと、M&Aをしたいとなっても相手先の経営者を口説けません。つまり、事業拡大の選択肢がすでに一つ無くなることを意味するわけです。

巻き込み力を分解すると、「ワクワクする未来を語れる力」だと思っています。単に話し方や表現がうまいということではなく、人を惹きつけるパワーやパッションが宿っているというのが近いかもしれません。

巻き込み力のほかには、成長市場かどうか、その市場で勝てそうな経営者かという点も見ていますが、言語化されるような要素に基づいて投資判断をしているのではなく、キープレイヤーズの事業と同様に直感的なものが大きいですね。スタートアップ・ベンチャーの転職支援と、シード・アーリー段階の企業への投資は見ている観点が極めて類似しているので、私にとっては同じことをやっている感覚です。

――とくに印象に残っている投資先または経営者を教えていただけますか?

すごい方だなと思うのは、医療ヘルスケア事業を行っている株式会社メドレーの代表取締役社長の瀧口さんですね。大きなビジョンを持っていて、それでいて細部にも強い。真似できないほど地頭がいい上に、思い切った判断もできる方です。優秀な方々を次々に招き入れて適切に株式シェアをしているのですが、その決断力がすごいと思います。

優秀な人材はたくさん存在しますが、優秀な方々を口説くのは難しいことです。それができる経営者はじつはあまり多くないのですが、瀧口さんはそれをしっかり実現していて、やはりすごい方だなと思っています。

自分でゼロから事業プランを考える必要はない

――投資して失敗したと思った経験はありますか?

投資して失敗したと思ったことはありません。私は株式を一度に全部売るということを一切やっていないので、中長期的な株主ということになります。その点は、VCとまったく違うところです。

もちろんボランティアをしているわけではないですが、投資して儲けようという考え方ではなく、「この人は素晴らしいな、すごいな」という方を応援させていただきたいというスタンスでやっています。なので、逆に投資しなくて失敗したなと思うことは時々ありますね。

ハンズオンを嫌がる経営者が多いという実感もあるので、厳しく口出しするようなこともしません。その会社の自走力が大事だと思っているので、困っていることがあれば相談にのるというスタイルで関係性を築いています。

――エンジェル投資家として実現したい世界観を教えてください。

ポテンシャルのある人が、より活躍できる社会にしたいという思いを持っています。当社のミッションは「キープレイヤーを発掘する」ということですし、可能性のある人材はたくさんいると信じているので、そういう方々と出会いたいと思っています。今すごいといわれている経営者も、昔は原石だったわけですから。

そうした社会を実現するためには、大手企業や行政、大学がスタートアップ・ベンチャーともっと積極的にコラボレーションすることも必要です。DXや地方創生というキーワードにおいても重要な取り組みになってくると思います。

――エンジェル投資家に投資相談をしたい経営者が気を付けるべき点を教えていただけますか?

最初の契約時に、株式シェアを気にしたほうがいいです。自分で売上を伸ばせるのに、最初から株式シェアを渡す必要はないので、投資の必要性は熟考したほうがいいと思います。相性が合わない投資家も避けたほうがいいでしょう。

あとは、自分でゼロから事業プランを考えなければならないと思っている起業家が多いのですが、私はそんなことはないと思っています。実際に、VCからの提案を受けて事業化して成功しているスタートアップもあります。ミドルやレイタ―になるとビジネスモデルは重要になりますが、シードやアーリーの段階では、正直、事業プランはあまり関係ないですね。成功している会社も、途中でピボットしているケースが非常に多いですから。

なので、起業する前のサラリーマンのうちにぜひ声をかけてほしいですね。投資家は何をやれば儲かるのか、儲からないのかを知っているので、一緒に考えるのも一つの方法です。投資家の知識を利用するくらいの気持ちで、相談してくれたらいいと思います。

今後のスモールビジネスの世界をこう見る

企業としての強みを持っていれば勝てる時代

――今後のスモールビジネスの中で、勝ち残る企業、消える企業の分け目はどこにあると思いますか?

勝ち残っていくために必要なのは、会社の強みを持つことだと思います。強みがあればスモールビジネスでも“持たざる経営”ができますし、BS(バランスシート)が軽いので有利な展開もしやすいと思います。今はインターネットやSNSでつながれる社会になっているので、中小企業や個人事業主がますます強くなれる時代です。

ちなみにキープレイヤーズは設立から16年間、一度も自ら営業をしていません。すべてインバウンドマーケティングで成り立ってきました。自分ができることを発信し、それが人や社会の役に立っていけば、Web上でつながりが可視化されるわけです。スモールビジネスにとっては、非常にビジネスチャンスが広がっていると思いますね。

強みを生み出すには、無駄なことをやらないことが必要です。戦略とは「捨てること」なので、今後スモールビジネスが勝ち残っていくには、“捨ててフォーカスすること”が求められると思います。可能性あふれるスタートアップ・ベンチャーには、微力ながらお手伝いしていきたいと思っているので、ぜひご連絡ください。

(インタビュー:土井 啓夢 文:社 美樹)

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出版社に18年勤務。編集長、メディア設計、営業統括、システム開発PMと畑違いの職務で管理職を経験。現在は数々のメディアで企画・編集・執筆を手掛ける。得意領域は実践も積んでいるメディア企画系、人事・マネジメント系、ビジネス系、医療・美容系。インタビュー経験は200件以上。Webライティング講師も務める。

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