2021年6月23日 コラム

新規事業専門家が考えるスモールビジネスが勝ち抜くために必要なたった1つのこと

【連載コラム】エンジェル投資家の見る世界

スタートアップや起業家の支援を行うエンジェル投資家。この連載では、インタビューを通じてエンジェル投資家の視点や知見、投資判断の基準を様々な角度から伝えていきます。今回は、これまで50以上の新規事業を立ち上げ、現在38社への投資を行っている新規事業家 の守屋実さんにお話を伺いました。


● インタビュイー:
新規事業家
守屋 実さん

●プロフィール
1992年、ミスミ(現ミスミホールディングス)に新卒入社し新規事業開発に従事。2002年に新規事業の専門会社であるエムアウトをミスミ創業者の田口氏とともに創業し、数多くの事業の立ち上げと売却を行う。2010年、守屋実事務所設立。新規事業を創出する専門家として活動を続けている。自ら投資を行うとともに創業メンバーの役員として就任し、事業の成長に向けてともに進んでいくスタイルを流儀としている。

●実績
「52(年齢)=17(企業内起業の数)+21(独立起業の数)+14(週末起業の数)」
ラクスル、ケアプロの立ち上げに参画し副社長を歴任。その後、数々のスタートアップをはじめ、博報堂やリクルートホールディングスなどの大手企業、経済産業省などの政府機関で、それぞれに取締役、アドバイザー、顧問などの立場から携わる。2018年、ブティックスとラクスルの2か月連続上場を含め、直近4年で4社の上場を経験。

●著書
『起業は意志が10割(講談社)』、『新しい一歩を踏み出そう!(ダイヤモンド社)』

新規事業立ち上げのプロとして

サラリーマン構造で仕事をしている人に新規事業立ち上げはできない

――これまでに取り組まれた新規事業の中で、もっとも印象に残っているものを教えてください。

一番印象に残っているのは、ミスミのときに関わった動物病院のカタログ通販事業です。なぜかというと、初めて打ったホームランだったから。このとき私は27歳で、当時日本には8000件の動物病院がありましたが、6000件の顧客を得ることができました。

その後、ミスミが金型以外の事業はやらないという本業回帰の判断をしたため売却しましたが、現在は全国1万件の動物病院のうち9050件が顧客になっているそうです。差分の950件は大動物を対象とした動物病院が主だそうなので、犬猫病院という括りで考えると、ほぼすべての動物病院が顧客という事業に成長している、ということだと思います。じつは、この事業以前に立ち上げた新規事業はすべて失敗だったので、初めての成功という意味で思い出深い事業ですね。

――失敗の経験を糧にして成功に漕ぎつけたということですか?

初めに立ち上げた看護師向けカタログ通販、ピボットして取り組んだ医師向けカタログ通販の二連続で失敗したことで、社内での立場が悪くなったというのがきっかけです。面と向かって、痛烈な批判を受けました。周囲の人たちからすると、ちゃらちゃらと浮ついているように見えてストレスだったのだと思います。

冷ややかな言葉を浴びせられて、さすがに自分は何かを間違えているのかもしれないと気づいたわけです。最終的に行き着いた結論は、私の「根性」が間違っていたということ。テクニカル的なことは間違っていなかったと思っていますが、新規事業を立ち上げるときの立ち向かい方が間違っていたのです。

たとえば、経営会議で「これはいける」と取締役が言っているから大丈夫とか、いいねと言っている顧客の声を集めて報告するとか、いわば悪しきサラリーマンの構造で仕事をしてしまっていたんです。自分が経営者の立場で、生死が懸かっていたら絶対にやらないことのオンパレードをやっていたんですね。だから、ありとあらゆる表面的なことが全部うまくいかなかったわけです。

今思うと、本当にポンコツでした。なので、サラリーマン構造の延長でしか仕事ができない人には、新規事業の立ち上げはできないと思っています。

魅力的な経営者に出会うと瞬間的に熱量が感染する

――新規事業の立ち上げで、もっとも重要と思うことは何でしょうか?

新規事業の話になると途端にテクニカルなことに走りがちですが、本当に大事なのは、その事業に対して本気で立ち向かう覚悟があるのかということだと思います。その根っこがあって、初めてテクニカルなことが生きてきます。

よくPowerPointやExcelで話を展開し始めたり、カタカナ語を多用したりして体裁を整える人がいますが、土台がないところに武器だけ詰め込んでも意味がありません。本当にその事業を成功させたいという強い思いがあるなら、無意識に24時間365日考え続けてしまうくらいの熱量があって当然のこと。カタカナ語を振りかざす暇があるなら、行動せよと思いますね。人は考えた通りにはならず、おこなった通りになるんです。

新規事業は、どんなに量稽古をしていても100発100中とはならないものです。その過程では本当に苦しむことになりますから、これを乗り切るには自分の中から湧き上がってくる意志と熱量が重要になるのです。

――意志や熱量はどうしたら湧いてくるものなのでしょうか?

よく受ける質問なんですが、この考え方は左脳的に正解を求めている気がしており、それ自体がそもそも間違っているように思います。たとえば、私が「高齢化社会だからシニアビジネスが熱いよ」といったら、その事業をやりきる覚悟ができるのか?その領域の課題を本気で解決したいと思えるのか?ということです。意志や熱量は自分の中に自然と湧き上がる感情なので、教えてもらったり考えて湧いてくるものではありません。

もう1つの間違いは、なんでも自家発電しないといけないと思っていること。たとえば、自分の中で湧き上がるものがないのだとしたら、湧き上がっている人を手伝えばいい。そのうちに熱が移って同じ夢を追いたくなるかもしれないし、別の夢を見つけるかもしれない。新規事業だけが素晴らしいわけではないですから、「どうやって熱量を……」と言っている時点で基本的な思考がズレていると気づいたほうがいいと思います。

――守屋さんの熱量はどこから生まれてくるのでしょうか?

私は新規事業を延々とやり続けているので、魅力的な経営者に出会うと比較的簡単にその経営者の熱量に感染します。ときには、本人よりも盛り上がっていることもあるくらい(笑)。自分の中で「ここは変わったほうがいいな」「この領域はもっと変革が起きたほうが良い」と考えているネタが常に大量にストックされています。そういったおぼろげにこのあたりをやらないといけないなと思っているところに、解像度高く「これはどうですか」と持ち掛けてくる人が現れたりすると、瞬間的に沸騰しますね。30年くらい新規事業に携わっているので、そうしたベースがかなり蓄積されていて、着火しやすい状態になっていると思います。

私がやる事業は初めから決めていて、この事業は世の中に存在したほうがいい、または、この業界は新陳代謝がなくて行き詰まっているから変革が起きるべきであるなど、どうにかしないといけないと思っている領域がすでに数十カ所あります。更に、Aという事業を立ち上げると、その側にBという事業が見えてきて、事業を立ち上げるほどに未着手の領域が増えていくという感覚です。

語弊があるかもしれませんが、これを私は労働だと思っていなくて、活動しているだけだと思っているんです。好きなことや夢中になれることに向けて常に突っ走っているという状態ですね。

みんなが至極当然と思うことをやっているだけ

――数多くの新規事業に関わってきた守屋さんの「勝ちパターン」はありますか?

大きな枠組みで捉えると、ミスミの成功パターンがラクスルの原型になっています。サプライチェーンにアプローチして、それ自体を変革しているということ。最近の言葉では、DX(デジタルトランスフォーメーション)になるでしょう。

ミスミのケースでいうと、花形の営業マンが属人的にやっていたことを紙のカタログにしたわけです。当時はインターネットがない時代なので紙の形式でしたが、本質的な構造は現在のECとほぼ同じです。

フロントエンドを見ると、ばらばらになっていた情報をわかりやすくまとめて、安定的に安く供給できるようにしたという変革になりますが、これを実現するにあたってバックエンドの生産工程を革新しています。ミスミでいえばハーフメイド加工、ラクスルでいうと面付の革新です。つまり、バックエンドの革新があるからこそ、フロントエンドで安定的に安く提供するという革新が実現できるわけです。

これは単なるデジタル化を意味するのではなく、構造を変革するということです。ただ、私がやっていることは前人未到のアイデアを凝らしているわけではなくて、ちょっと考えれば「それはそうだよね」とみんなが思うような至極当たり前のことなんです。でも、この全体構造をしっかり考えずに、IT化だとかカタカナの流行語を使って部分的な話をしている人が多いように見受けられます。これは大きな課題だと思いますね。

エンジェル投資家としての「守屋 実」

投資家としてではなく、創業メンバーとして一緒に歩んでいる

――エンジェル投資家になったきっかけや理由を教えてください。

私の中では、エンジェル投資家という認識はないんですよ。ラクスルやケアプロでも副社長という役職でしたが、スタートアップにおける副社長なら普通に創業資金を出すと思うので、投資をしているという感覚を持っていません。

ただ、参画する企業がどんどん増えていく中で、どうしても一社あたりの関わり方が物理的に下がってきます。そうすると、自分自身は創業メンバーの一人であると思っていても、外から見るとエンジェル投資家がお金を入れているという状態に近くなるわけです。結果としてエンジェル投資家という見え方になっていると。最近は受け入れていますが、自分ではすべての会社に対して創業メンバーだと思って関わっています。

――投資したいと思う企業の特徴や、投資を決めるときの判断軸を教えていただけますか?

いくつもの事業に携わっている時点で、私自身はその事業を自分でやり切るということが物理的にできなくなります。そうすると、私にもっとも欠けているものは、「専心一意その事業をやり切るということ」になります。そのため、参画を決めるときは経営者がやり切れる人かどうか、という点が一番大事なことになります。

今はVC(ベンチャーキャピタル)のアドバイザーを5社ほどやっていることもあり、お声がけをいただく機会が多くなっていて、週に3~4件ほど新規の話がきます。ただ、私は投資家としてではなく、事業を生み出す側であることにこだわっているので、実際に投資をするのはごく一部です。

もともと私がやりたい事業があるので、そこに合致するのかという点が判断基準の1つ。もう1つは、本当に真剣にその事業を考え抜いているかということです。熱量や意志は、やり取りや資料から透けて見えるものなので、それが感じられないところとはご縁がないと思っています。

――守屋さんから見て、熱量が感染する・魅力的と感じる経営者とはどんな人ですか?

私の中でぼんやりと解像度が低い状態のところに、解像度の高い答えを持ってきて「これを人生かけてやり切るので、どうですか」と言われたら、その瞬間にべた惚れですね(笑)。みんなが課題感を持っていることに、回答を持っている人は本当に魅力的です。そういう人は世の中に必要とされ続けますし、意志が揺るがなければ、いろんな壁も突破していくと思います。

今後のスモールビジネスの世界をこう見る

当たり前のことを当たり前にやり抜く力が必要

――今後、スモールビジネスの世界はどうなっていくと思いますか?

規模が大きい企業ほど有利という時代から、小さくても強ければ勝てる時代になってきていると思います。今回のコロナ禍のような不透明な状況下では、小回りがきいて、すばしっこく動ける企業がやはり強いですよね。

今は、事業を立ち上げるために必要な様々なサービスがネットで提供されていて、しかも無料だったり低料金で利用できたりします。スモールビジネス経営者にとっては好条件が揃っていますし、今後もさらに良い環境になっていくと思います。これまで変化が少なかった領域でも変わらざるを得ない状況になってきている点も、スモールビジネスにとってのチャンスといえるでしょう。あとは本人の意志次第です。

――スモールビジネスが勝ち抜くために必要なことは何だと思いますか?

テクニカルなことよりも、まず、ちゃんとやり切るということが大事だと思っています。ネットでも書籍でも、顧客視点を持つことが大事とか、価値を提供するといったセオリーはたくさん提供されていて、私があえて言うまでもありません。ですが、本当に考え抜いて試しきるというのは、実際には相当に苦しいことです。

想定していた顧客が買ってくれない、頼りにしていた人にあっけなく去られるといったことは往々にして起こるわけで、こうした問題を全部、延々と乗り越え続ける意志が求められるわけです。

当たり前のことを当たり前にやり続ける。これが勝ち抜くために必要なことであり、同時に本当に至難なこと。最後まで心が折れずに、やり切った人が勝ち抜くのだと思います。

(インタビュー:土井 啓夢(編集部) 文:社 美樹)

今回守屋さんの著書、「起業は意志が10割」の書籍データ100頁分のPDFを、
こちらから無料でダウンロード できます。

<strong><span style="text-decoration: underline;">社 美樹</span></strong>
社 美樹

出版社に18年勤務。編集長、メディア設計、営業統括、システム開発PMと畑違いの職務で管理職を経験。現在は数々のメディアで企画・編集・執筆を手掛ける。得意領域は実践も積んでいるメディア企画系、人事・マネジメント系、ビジネス系、医療・美容系。インタビュー経験は200件以上。Webライティング講師も務める。

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