2021年12月22日 コラム

1.4兆円市場に挑む、地域・人・企業をつなぐ日本初の祭り専門会社のチャレンジ

【連載コラム】女性起業家の経営とファイナンス

1.4兆円市場に挑む、地域・人・企業をつなぐ日本初の祭り専門会社のチャレンジ

女性ならではの感性・視点を活かしたビジネスで、社会に新たな価値を提供している女性起業家。この連載では、注目の女性起業家の経営ストーリーやリアルな体験をインタビュー形式でお届けします。

今回は「祭りで日本を盛り上げる」というビジョンを掲げ、数々のビジネスコンテストでの受賞歴を誇る株式会社オマツリジャパンの代表取締役 加藤 優子さんにお話を伺いました。“祭り”という日本人の生活に深く根を張る文化でありながら、誰もビジネス化していなかった領域に挑戦を続ける同社。そこには、祭りへの情熱と容易に模倣できないビジネスモデルがありました。


●インタビュイー:
株式会社オマツリジャパン
代表取締役 加藤 優子さん
●プロフィール
1987年生まれ、東京都練馬区出身。武蔵野美術⼤学油絵科を卒業後、漬物メーカーに入社しパッケージデザインや商品開発に従事。東日本大震災直後の青森県ねぶた祭に行ったことをきっかけに、祭りのアイデンティティやパワーを実感。会社員のかたわら、1人でオマツリジャパンを立ち上げ活動をスタート。メンバーや仕事が集まってきたことを機に株式会社オマツリジャパンを設立。現在は2児の母であり、子育てと仕事の両立をしながら奮闘中。
★日本最大級の祭りメディア「オマツリジャパン

起業のきっかけ

起業のきっかけ

震災後の青森県ねぶた祭で、ものすごいエネルギーを感じた

――起業した背景・経緯を教えていただけますか?

学生時代は美大の油絵科に通い、現代アートといわれるものを描いていました。現代アートは抽象的なので、親からも「お前が描いている絵は意味がわからない」といわれていました。絵を描くことは好きだったのですが、「この作品は、誰かをわかりやすく幸せにしているのか?」という思いは常にかたわらにあり、その疑問が表面化したのが東日本大震災です。そのとき私は大学3年生で、私が今まで勉強してきたことは震災で困り果てている人たちを助けるという意味ではすぐには役に立たないと実感したんです。

お祭りにのめり込んでいくきっかけとなったのは、震災直後に青森県のねぶた祭を見に行ったことです。全国的にお祭りは自粛ムードでしたが、そこにあったのはものすごいエネルギーとたくさんの笑顔でした。祭りは日本のパワーの源で笑顔と元気を引き出すものなんだと、大きな衝撃を受けました。

ただ、大学卒業とともに起業したわけではなく、はじめは漬物メーカーに就職しました。その頃から、“古臭い”といわれているものをリデザインすることで人を振り向かせたり、買ってもらったりすることに興味を持ち始めていて、漬物の会社でパッケージデザインや商品開発をやっていました。

その間もお祭りに対する情熱はずっと持っていたので、私が勉強してきた美術の発想力を活かせないかなと思い、会社勤めをしながら地域活性化のお手伝いをしつつ構想を練っていました。そうしているうちに、だんだんと仲間が集まり、アイデアや仕事も集まり始めて法人化した、というのが起業までの流れです。

事業内容について

事業内容について

全国30万件の祭りの火を絶やさないために

――事業内容を教えていただけますか?

大きく3つあります。1つ目は『オマツリジャパン』というメディアの運営です。日本中のお祭り情報や参加方法などを提供していて、日本最大級のお祭りサイトになっています。

2つ目は、国や自治体など公共向けに展開しているサービスです。お祭りだけでなく、伝統芸能や文化財を含めてプロデュースしていて、地域文化を活用した集客やファンづくりをサポートしています。具体的にはお祭りの運営支援や観光コンテンツ開発、観光PRなどで、たとえば阿波踊りをデジタルコンテンツ化したり、Web上に特設ページを作ってフォトコンテストを実施したり、いろいろな企画を実施しています。

3つ目は法人向けのサービスです。祭りとタイアップして自社商品のPRや売上拡大を狙いたい企業様と、各地のお祭りとをつないでいく事業です。たとえば、祭り会場にブースを出店してサンプリングしたり、キャンペーンの景品としてお祭りの観覧席チケットを付けたり、売上の一部をお祭りに寄付できる商品の開発、地域の観光大使やご当地ミスとのタイアップなど内容は様々です。

お祭りは日本人にとって親しみのある文化なので、企業にとっては生活者の共感を得やすいというメリットがあり、祭りの主催者側は資金を集められるというメリットがあります。ここには挙げきれないほど、たくさんの企画を実施しています。

――お祭りの資金集めというと地元企業の協賛を募るというイメージがありましたが、それとは一線を画す企画・サービスを提供されているのですね。

法人向けサービスを始めたのは、資金が足りなくてお困りのお祭りから相談があったことがきっかけです。これまでどうやって運営していたかというと、祭りで使う提灯やうちわに企業名を載せるなどして協賛を募っていたんですね。

ですが、本当に広告効果があるのか、地域貢献になっているのかなど企業側としてはなかなかメリットが見出せないということで、お金を出しにくくなっていました。さらに、祭りの主催者側は高齢化していることもあり、資金集めに困ってはいても新しい協賛の仕組みが作れていないという課題がありました。

オマツリジャパンは各地のお祭りをプロデュースしていることから、企業様から「人がたくさん集まる場所で自社商品をPRしたい」といった問い合わせをたくさんいただいていました。そこで、双方の課題を解決するサービスとして事業化したという形です。

――お祭りの経済効果はどれくらいの規模感なのでしょうか?

日本には、大小合わせて約30万件のお祭りがあります。青森県のねぶた祭を例に挙げると、経済効果は約238億円という莫大な市場です。国内全体でみれば約1.4兆円もの市場規模があると考えています。祭りは日本人はもちろん、外国人にとっても魅力的な観光コンテンツなので、旅行市場からも期待が集まっています。

経済効果以外にも、祭りは地域の人々の生きがいになっていたり交流の場になっていたり、人と人との絆をつなぐ場でもあります。ですが、今の日本の祭り市場は少子高齢化による人手不足や資金不足、アイデア不足、PR不足など課題が山積みです。

そこを「オマツリジャパンがワンストップで解決しましょう」という形で取り組んでいます。当社では「祭りで日本を盛り上げる」というビジョンを掲げていて、日本全国30万件の祭りの火を絶やさないようにするという意気込みで臨んでいます。

収益化と資金繰りについて

収益化と資金繰りについて

「半年間通って数万円」というところからビジネスモデルを大きく転換

――お祭りを軸に3つの事業を展開されていますが、ビジネスモデルを教えていただけますか?

オマツリジャパンという社名なので、祭り運営をサポートして収益化している会社と思われがちですが、祭り自体からお金をいただいているのではなく、祭りイベントの開催によって人を呼び込みたい自治体や、自社商品をPR・販売したい法人からお金をいただき、お祭りをサポートするビジネスモデルになっています。

そもそも祭りは資金不足を課題としているところがほとんどなので、基本的には祭りによって利益を得られる経済圏の方々からご予算を頂戴するという仕組みです。

――起業してからの失敗経験を教えていただけますか?

起業の初期はビジネスモデルが定まっておらず、本当に大変な思いをしました。当初は日本にはたくさんお祭りがあるのだから、たくさんのお祭りを助ければ売上が上がると考えていたんです。マンパワーはかかりますが、人を雇って、みんなで楽しく仕事をしながら日本のお祭りを救っていこうと思っていました。

スタート時は近くの商店街のお祭りをお手伝いしていたのですが、主催者側が高齢化していて人を呼び込むアイデアがない、運営スタッフが足りない、資金が足りないなど本当に困っていました。お祭りは準備期間に半年間くらいかかるので、毎週のように通ってお手伝いしたのですが、最終的に「本当にありがとう!」といわれて手渡されたのが数万円(笑)。これではまずいなと。お祭りは本当に手間がかかりますし、私が通えるところとなると地域も限定されます。

また、休日に開催することが多いので、日程が重なると早い者勝ちでしかオマツリジャパンのプロデュースを受けられないということになるわけです。オマツリジャパンなのに、全然ジャパンじゃないなと(笑)。

そこで、どこからお金をいただくべきなのかを考え始めて、自治体や法人から頂戴するという現在のビジネスモデルにたどり着きました。

――ビジネスモデルを変えるきっかけとなった出来事はあるのでしょうか?

2014年に設立して、2016年から2018年の間にビジネスコンテストで8つの賞をいただきました。新聞などのメディアで取り上げられる機会が増えて、それを見た企業様から「祭り会場で自社商品を配りたいのだが、紹介してもらえるか」といった問い合わせが多くなっていったんです。「これはもしかすると、ビジネスチャンスのタネかも?」と思い、やれることは全部引き受けているうちに自ずと正解が出た感じですね。

お祭りをメイン事業にしているところが他にありませんでしたし、祭りというものは歴史や人間関係が複雑で模倣が難しいビジネスモデルでもあります。それゆえに、ビジネスチャンスでもありました。

――いろいろな企業とパートナーシップを組まれていますが、成功した取り組み例を1つ紹介していただけますか?

今は大手企業も地方創生に目を向けていて、その中でもお祭りコンテンツには非常に興味を持ってもらえているため、多くの企業様から声をかけていただいています。

例えば、JR東日本様とやっている『祭り留学』。日本はこれから人口が減少していきますが、お祭りを通して「関係人口」を増やすことで地域を盛り上げていこうという企画です。ここでいう関係人口とは移住・定住ではなくて、その地域に興味や魅力を感じて何かしらの形で関わりたい、訪問したいという人のことです。

祭り留学では、現地体験ツアーやオンラインツアーなど様々なプログラムを用意していて、参加者は自分の都合に合わせて体験プログラムを選べる形になっています。現在実施しているのは秋田県男鹿市の「ナマハゲ」をテーマにしたもので、地域への理解を深められるだけでなく、ナマハゲさんと話したり男鹿名物のハタハタや日本酒が自宅に届いたり、地域文化を肌で感じられる内容です。

現在、のべ100名近く参加いただいており盛り上がってきています。今後は、祭り留学を日本各地に広げていく予定です。

――『オマツリジャパン』のプラットフォームは、どのような成功の構想を描かれているのでしょうか?

じつは、自治体や法人からお金をいただくというビジネスモデルだけでなく、お祭りのプラットフォームを作りたいという思いは設立当初からありました。最初は日本中のお祭り主催者が集まるプラットフォームを作り、主催者が便利に使えるサービスを提供しようと考えていました。

主催者が利用する「オマツリジャパンリーダーズ」というサービスを提供しているのですが、ここに登録していただくと、感染症対策の支援やWeb・チラシを使った告知、協賛企業の紹介、資材レンタル、食材仕入れ、警備・運営スタッフの手配などができます。ただ、便利に活用していただいている方がいる一方で、主催者のみなさんが高齢化しているため、Webサービスという形態は残念ながら広がりの面で課題が残るという現状があります。

ですので、今はまず地域と個人とを結ぶプラットフォームとしての進化を目指しています。オマツリジャパンのサイトはおかげ様ですごく強くなっているので、これを活かして地域のファンづくりを促進したいと考えています。

お祭りのチケット販売やオンライン・リアルを含めた地域文化体験、グッズや名産品の物販といったサービスを提供して、5年後の2026年には456件の自治体の利用を目標にしています。この数値は、祭りや伝統芸能、世界遺産がある地域で、かつ町づくりや文化財保護の部署がある自治体が全国に1878件あり、そこから試算しています。

祭りで日本を盛り上げるというのが私たちのビジョンですが、日本が盛り上がらないことには祭りも盛り上がりません。ですので、まずは地域全体を盛り上げていこうと舵を切っているところです。

地方創生の支援をしたい事業会社・個人投資家が出資

――コロナ禍でお祭りが開催されず、経営的には大きな打撃だったのではないでしょうか?

全国的にお祭りがなくなり、見込んでいた売上が数千万円規模で吹っ飛ぶという、相当耐え忍ぶ時期となりました。ですが、何もしなかったわけではなく、できることは何でもやってみようとあがいていた2年間でした。

たとえば、『オンライン祭り2020』と題して、おうちでお祭り気分を楽しめるイベントを開催しました。今もYouTubeに残っていますが、2万5000回ほど再生されています。ほかにも祭りイベントに関する公認の感染症対策のガイドライン制作を請け負ったり、家でもお祭りを楽しめる縁日グッズを詰め込んだ宝箱を制作・販売したり。Facebook Japan様とコラボレーションして、お祭り主催者のコミュニティを発足するなどの活動もしてきました。

――コロナ禍以外で、資金繰りに苦慮する場面というのはありますか?

当社は国や自治体の案件をたくさん受けているのですが、そうすると入金のタイミングがどうしても遅くなりがちです。支払いサイトが長いこともあれば、年度末の決まった時期にしか入金されないというケースもあります。その間に持ち出しでどんどんお金が出ていくので、資金繰りが大変になることがあります。

また、大きな事業の中のお祭り部分だけを当社が二次受けしている案件も多くなっています。通常は、元受けの大手企業がすべての仕事が完了した後に二次受けの会社に支払うのですが、資金繰りのために先払いをお願いしたりして対応することもあります。

――これまでの資金調達の方法を教えていただけますか?

エクイティ(株式資本による資金調達)では、2017年と2019年に資金調達しています。私はどんなコラボレーションができるか、どれくらい一緒に仕事ができるかに重きをおいて判断していまして、出資していただいているのは事業会社や個人投資家が主です。キリンホールディングス様や、かんしん未来投資事業有限責任組合様、朝日放送のABCドリームファンド様、エンジェル投資家の方々などで、みなさんオマツリジャパンの事業や地方創生への可能性をみて応援していただいています。

設立当初は、オマツリジャパンというなぞの会社だったので(笑)、有名企業様からの出資は信用力を上げるうえでも本当に助かりました。

――たくさんの事業会社や個人投資家がオマツリジャパンを支援していますが、どんなことを期待されているのでしょうか?

地方創生を支援したいという共通ワードはありますが、お祭りに縁の深い会社が多いですね。オマツリジャパンとコラボレーションすることで新しい何かが生まれる、より効率的にブランディングや売上拡大につながるといった期待があると思います。

今後のスモールビジネスの世界をこう見る

今後のスモールビジネスの世界をこう見る

経営者があきらめなければ、道は続いていく

――今後のスモールビジネスで、勝ち残る企業と消える企業の分かれ目はどこにあると思いますか?

今のビジネス環境はレッドオーシャンだらけなので、差別化した者勝ちだと思います。いかに尖らせるかというのが一つのポイントで、誰かに必要とされたり社会的に意義のあることをやったりしていることが大事になってくるのかなと。オマツリジャパンの場合は、初めに必要とされていることをいろいろやってみて、その中から継続的に成長できる形を見極めていきました。

企業の規模に関わらないですが、経営者にやる気がみなぎっていれば道はある、というのが今回のコロナ禍でわかったことです。あきらめなければ、道は続いていくと思っています。

――これからの女性起業家に必要なことは何だと思いますか?

2つあると思っています。1つ目は、全員を味方にしていく巻き込み力です。競合他社であっても「一緒にやりましょうよ」と巻き込みながら進んでいく力が大事だと思います。

2つ目は、ライフスタイル上、難しい方がいることは承知の上で申し上げるのですが、子供がいたり介護があったりと家庭の事情があっても、現場にいくことです。私は子供が2人いますが、以前、ある出資者の方から「加藤さんが子供を産んだら、やばいなと思っていた」といわれたことがあります。なぜかというと、現場力がすべてだから。経営トップが現場やオフィスに行けなくなったり、仕事以外のことを考える時間が増えたりすると、会社全体にじわじわと影響が出てしまうからです。

私は産休を2回取っていますが、復帰してから本来の仕事モードになるまで半年かかりました。休んでいる間もリモートで毎週会議に参加していたのですが、それでもやはり遅れをとってしまうことは否めません。ライフステージが変わる女性にとって大きな課題ではありますが、現場力を落とさないことは女性起業家にとって本当に大切なことだと思っています。

――今後、加藤さんが挑戦したいこと、成し遂げたいことを教えてください。

お祭りを盛り上げていくだけではなく、地域を丸ごと盛り上げていきたいと思っています。お祭りのプラットフォームとして、さらに進化させていきます!

(インタビュー:土井 啓夢 文:社 美樹)

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社 美樹

出版社に18年勤務。編集長、メディア設計、営業統括、システム開発PMと畑違いの職務で管理職を経験。現在は数々のメディアで企画・編集・執筆を手掛ける。得意領域は実践も積んでいるメディア企画系、人事・マネジメント系、ビジネス系、医療・美容系。インタビュー経験は200件以上。Webライティング講師も務める。

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