2021年9月22日 コラム

チラシ集客で年商7億円まで成長したリサイクル会社の道のり

【連載コラム】ニッチビジネスの革新的戦略論


大企業がカバーしきれないニッチ領域は、スモールビジネス経営者にとってチャンスが広がっている市場です。この連載では、ニッチ領域で成功している経営者へのインタビューを通じて、ビジネス成功のヒントをお届けします。

今回は、手元資金3万円から始めたリサイクル業で年商7億円の企業へと成長を遂げた、五右衛門ホールディングス株式会社 代表取締役社長の坂根大郷さんにお話を伺いました。


●インタビュイー:

五右衛門ホールディングス株式会社

代表取締役社長 坂根大郷さん

●プロフィール

19歳で始めた事業に失敗し480万円の借金を背負う。その後、一度は就職したものの、再度起業し4,800万円まで借金が膨らみ挫折。進退窮まるなか、リサイクル会社に入社して生活費を工面。そこで買取のノウハウを獲得した後、2014年6月に出張買取サービスの五右衛門株式会社を創業。2020年12月、五右衛門ホールディングス株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。

●事業内容

出張査定による買取事業「なんでも査定のトータル」を展開。2021年3月に横浜・元町に「MAGO GALLERY YOKOHAMA」をオープンし、アート事業も手掛ける。「使えるモノは、直して使う」をコンセプトにしたリペア事業もスタートし、日本が誇る職人技術の継承に努めている。

20代で背負った4,800万円の借金

全財産20円のどん底を経験してマインドが決定的に変わった

――20代で多額の借金を背負われた経験があると伺いました。どういった経緯があったのか、教えていただけますか?

もともとビジネスに興味があり、最初に手掛けたのは19歳のときです。しかし、1年くらいの間に450万円の借金を作ってしまいました。親や周囲の力を借りて返済し、その後、就職したのですが、やはり独立したいと考え20代半ばに再度起業します。ですが、自分のやりたいことが最優先で計画性がないという点は変わらないままだったので、結果的に借金が4,800万円まで膨らんでしまいました。

全財産20円というどん底まで落ちて、本当に「もう死ぬしかない」と思ったときに頭に浮かんだのは、「自分が死んだら誰が後始末をするのか?」ということでした。お金は金融機関ではなく周囲の人たちから借りていたので、自分が死んでも返済の問題は何も解決しません。そのときに、以前借金をしたときに母親から言われた「一番の不幸は子供に死なれる事や。命があるだけまし」という言葉を思い出して、これ以上の親不孝はできないと思い直しました。

そこまで落ちて、ようやく「今できることを全力でやる以外に選択肢はない」と思ったんですね。アルバイトでも何でもやって、月1,000円でもいいから返していこうと。そこからマインドががらりと変わって、仕事に対する姿勢も変わりました。

それまでは実業家になって自分自身を150%表現したいという思いが強く、どうしたら短期的に儲けられるのかを考えていましたが、自分の不甲斐なさを責めるしかない、みじめな経験をしたことで、いま目の前にある仕事でどれだけ自分の価値を提供できるのかという思考へと変わりました。

――借金を返済するために、具体的にどんな方法をとられたんですか?

とにかく目先のお金が必要だったので、基本的には派遣会社の単発の仕事をやってしのぎました。引越作業や単発の夜間工事などですね。とはいえ、派遣会社からすると何のノウハウもない人間に単発の仕事を依頼するのは、リスクが高いので嫌がられるわけです。なので、言われたことをやってお金をもらおうというスタンスではなく、現場の社員さんが望むことを先回りして考え、全力で仕事に臨みました。

たとえば、引越作業であれば全力疾走で荷物を動かすというように、現場で求められることは何かを率先して考え、行動するようにしたんですね。こうしたスタンスでやっていたら、派遣先から高く評価してもらえるようになり、現場を任されることも多くなっていきました。

だからといって時給がバーンと上がったわけではありませんが、それよりも仕事自体が面白くなったんです。周囲に認められることも嬉しかったし、自分で考えて作っていくという喜びがありました。

仕事が楽しくなると稼ぐこと自体が面白くなってきて、いろんな仕事を掛け持つようになり、夜も働こうと考えバーの面接に行きました。そこは本業がリサイクル会社で、夜はバーを兼業しているという会社でした。面接時に、借金があるので日雇いじゃないと生活できないという話をしたら、「昼も働いてくれるなら前払いするよ」といってもらえ、それならと始めたのがリサイクル業界に入ったきっかけです。

リサイクル業界で独立起業、年商7億円までの道のり

名前の通り、家電やファッション雑貨、電子ピアノや農耕器具まで様々なものを買い取っている

人材育成が難しい「なんでも出張買取」は“ブルーオーシャン”だった

――リサイクル業との出会いは偶然なんですね。そこから独立起業されるまでの経緯を教えていただけますか?

リサイクル会社では、営業の仕事をしました。成績がいいときは月に100万円以上稼げるようになって、借金の返済をしても生活に余裕を持てるようになりました。ただ、この会社は貴金属の出張買取が専門で、私自身はこのビジネスモデルにあまり賛同していなかったんですね。

結局1年くらいで辞めて、その後ふらふらとしているうちにお金がなくなってしまい、またしても「何とかしないといけない」という状態になりました。そこで、もう自分にできるのは買取のビジネスしかないなと思い、起業することにしました。そのときの手元資金は3万円で、自宅の一室から始めました。

――起業後は順調に売り上げが伸びていったのですか?

始めてから2カ月は苦しい状態が続きましたね。テレアポで集客していたのですが、最初はビギナーズラックみたいな感じでうまくいったものの、その後は荷電しても全然アポが取れなくなったんです。そこで、私がサービスを提供できるお客様は「どんな人なのか」を徹底的に考えて、「普段は買取サービスを利用しない人」に焦点を当てることにしました。

独立してから2カ月の間にわかったのは、前職で扱っていたような貴金属以外にも価値があるものはたくさんあって、お客様が捨ててしまっているものでも、じつはお金になるものが意外に多いという事実です。しかし、その当時は買取サービスというと、出張買取か、お客さん自身が店頭にモノを持っていくかの2パターンしかありませんでした。

モノがあっても運べる車がないとか、時間がないとか、あるいは足が不自由でリサイクルショップに持っていけないという方がたくさんいて、そうした方々は買取サービスを利用せずに捨ててしまっていたんですね。

つまり、お客様からすると、店頭買取はいろいろなモノを買い取ってもらえるものの自分で持ち込まなくてはいけないという不便さがあり、出張買取の場合は貴金属類に限定されるなど、買い取ってもらえるものに制限があるという課題があったのです。

そこで、「何でも出張査定する」というポジショニングで展開すれば、他社にはない価値を提供できると考えたわけです。「靴一足からでも出張買取に行きます」というコンセプトを打ち出し、これがヒットしました。

――当時は、何でも買い取るという出張買取サービスは珍しかったわけですね。

出張買取で何でも買い取ってくれる業者は当時ほとんどなくて、まさにブルーオーシャンでした。というのも、これを実現するのは容易いことではなかったためです。

何でも査定するということは、様々な分野における目利きが必要になるわけです。お客様は「本当にこの人に売ってしまっていいのか」という不安を持つものなので、営業マンにはコミュニケーション力や専門性、権威性といったいろいろな要素が求められ、人材育成の面を考えると横展開しづらいわけです。この課題を解消しなくてはならないが故に、当時、競合が少なかったのだと思います。

――現在は買取事業のほかアート事業、リペア事業も展開されていますが、貴社のビジョンを教えていただけますか?

最初は「すべてのモノを輝ける場所へ」という理念を掲げていました。ですが、じつは社員がなかなか根付かず、どうしたものかと悩み、思い至ったのが理念を考え直そうということでした。

社員からすれば、安心して働ける環境なのか、昇給や賞与があるのか、仕事にやりがいがあるのかといったことが大事になってくるわけですよね。でも、創業初期はそんなことを考えずに突っ走って、散らかしたものを処理してもらうような役割を押し付けてしまっていました。そんなことをしていたので、社員が辞めたいとなるわけです。その時、なんで辞めたいと思ったのかを色々教えてもらい、実は会社の制度や仕事自体に不満があることがわかりました。そういう状況を知ったときに、まずはここで働いてくれる社員が輝いていないと意味がないなと。そこで、「すべてのヒトとモノを輝ける場所へ。」と理念を変えました。

リサイクルを通して社会に価値を生み出せる会社にしていきたいと考え、「八方良しの仕組みでより良い社会に」というビジョンを考えました。八方とは“会社・社員・顧客・取引先・社会・株主・環境・未来”の8つです。これらがすべて良くなる仕組みを作るというビジョンができたことで、ようやく会社の方向性やコンセプトがしっかり固まりました。

今思えば、会社を立ち上げたばかりのときは自分が成したいことばかりに目を向けていて、社員の不満に気づくことができませんでした。いろいろな失敗を経て、ようやく会社を作っているのは「ヒト」であることに気づいたわけです。理念、ビジョンが自分の中できっちり定まったことで、社員との距離が縮まり、人間味のある会社へと変化していったのではないかなと思っています。

ニッチビジネスの収益化をどう考えるのか

お金をかけない集客方法は弱い

――事業の収益化という点で、どのような戦略を実行されたのでしょうか?

まずはお客様に当社の出張買取サービスを広く知ってもらうことが重要と考え、テレアポに変わる手段として、チラシを撒いて集客しました。
チラシは、基本的にはあまり見てもらえる媒体ではなく埋もれてしまいがちです。そのため、どうしたら目に留めてもらえるのか、どうしたら内容を見てもらい問い合わせてもらえるかを考えました。そこで、パッと見で印象に残るようにと考えたのが手書きのデザインです。我々の顧客はお年寄りも多い為、キレイにまとまったデザインよりも手書きのメッセージのほうが見てくれやすいのでは?という仮説を立てました。結果この仮説がハマり、現在の集客の8~9割をチラシで獲得することができています。

チラシ以外にも集客方法はいろいろ試してみましたが、基本的にブログといったお金をかけずにやる方法は集客力という面では弱かったですね。こぢんまりとやっていくなら無料の集客ツールを使うのも良いかもしれませんが、事業を拡大させたいのであれば、クオリティやチャネルにこだわり、お金をかけて広告しないと認知度アップやブランド力の強化はできないという結論に至りました。

最初から成功の構想があったわけではないのですが、チラシの集客モデルがうまくいってからは、反響率や1件あたりの利益率といったものが見えてきました。どれくらいのコストをかけて何軒回れば、どれくらいの売上になるのか、見込みを立てられるようになったわけです。そこで、創業から2~3カ月後くらいに投資家から130万円の出資を受け、この資金をもとにビジネスを軌道に乗せることができました。

――買取サービスは仕入金が必要になりますが、資金繰りで工夫されていることはありますか?

資金繰り面でいうと、現預金は一番重視しています。つい先日も高額商品を複数買取させていただいて、3,000万円ほどかかりました。モノが出てくるタイミングは読めないので、手元資金がなければ、こうした取引は見送らざるを得なくなってしまうわけです。

基本的に、当社のCCC(Cash Conversion Cycle)は、2週間から1カ月程度になっています。方針として、高く売れるモノ・サイズが大きいモノを優先的に出品するという形をとっていて、できるだけ高回転で売り切る体制を作っています。

今は資金が足りなくて困るということはありませんが、今あるキャッシュをどこにどう振り分けるのが将来的に良いのかという判断に悩むことは多いですね。現在、当社にはアルバイトや業務委託を含めると100名近い従業員がいるので、組織を動かす上で、より良いお金の使い方が目下の課題です。

今後のスモールビジネスの世界をこう見る

引用:MAGO GALLARY YOKOHAMA 公式YouTubeチャンネル

唯一無二のクオリティを提供してニッチ領域で勝ち残る

――今後のスモールビジネスにおいて、勝ち残る企業と消えていく企業の分かれ目はどこにあると考えていますか?

今はオンライン化が進んでいて、即座に情報が共有されるという意味で世界がどんどんつながっています。そう考えると、世界が目指していることに対して、企業がどれくらい力になれるのかという点が今後さらに重視されるのではないかなと思っています。

SDGsやムーンショット目標もそうですが、日本や世界が数年後にどんな未来を創りたいのかという話に、私はとてもワクワクするんですね。向かうべき方向が示されている中で、いかに企業としてのポジションを確立していけるか。これが鍵になるのかなと。

実際に、スモールビジネスでありながら特定の分野で高いシェアを獲得していて、その企業がないと成り立たないような業界もあります。これからは、そうしたニッチビジネスが世界から求められるようになり、生き残っていくのではないかなと思います。

――五右衛門ホールディングスはチラシをきっかけに年商7億円まで成長されましたが、ニッチビジネスでの成功ポイントはどこにあると考えていますか?

顧客至上主義というのが正解かわからないですが、お客様が求めていることに対して、どれくらい期待を超えていけるのかという点が一つの鍵だと思います。

以前にお祝い事で、ある有名料亭を訪れたときに、食材や器、掛け軸に至るまで徹底的にお祝いの演出がなされていました。1組のお客様ごとにすべてを演出するというのは、サービスとして最強だと感じたんですね。料理だけを見れば他店でも遜色ないものを提供できるかもしれませんが、このサービスは唯一無二のクオリティだなと。これがニッチビジネスだからこそ成せることであり、次にどんなことをやってくれるのかという顧客の期待につながっていくのだと思います。

こうした世界観を実現するために私が意識しているのは、まず従業員の期待を超えていくということです。働く人が期待以上と感じていたら、それがお客様に伝わりますし、ひいては社会に認めてもらえる会社になっていきます。結果的に、株主や取引先の信頼も得られて資金調達がしやすくなり、よりビジネスを成長させることができるわけです。今は、こうした考えのもと、常に社会に新しい価値を提供したいという思いで会社経営をしています。

(インタビュー:土井 啓夢 文:社 美樹)

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社 美樹

出版社に18年勤務。編集長、メディア設計、営業統括、システム開発PMと畑違いの職務で管理職を経験。現在は数々のメディアで企画・編集・執筆を手掛ける。得意領域は実践も積んでいるメディア企画系、人事・マネジメント系、ビジネス系、医療・美容系。インタビュー経験は200件以上。Webライティング講師も務める。

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