2022年3月18日 コラム

【イベントレポート】#freeeIPO_Day 〜CFOが語る2021年IPOの裏側〜

freee株式会社では、2021年IPOのキーワードとなった「日本版コーナーストーン投資」の先駆者である3社のCFOをお迎えし、IPO準備のエピソードや取り組みについてのパネルディスカッションを開催しました。

モデレーターには、IPO協会 轟 会長代表理事の加藤広晃氏が登壇。freee株式会社のCFO 東後澄人を加えた5名で、先進的なIPOの裏側を語っていただきました。当日の様子をレポートします。

本イベントは「freeeカード Unlimited」の正式リリースを記念して開催しました。
freeeカード Unlimitedの詳細は以下URLをご覧ください。
https://www.freee.co.jp/finance/card/unlimitedcard/


▶開催日

2022年1月26日(水)


▶モデレーター

IPO協会 轟 一般社団法人 会長代表理事 加藤 広晃 氏

公認会計士の資格を取得後、有限責任監査法人トーマツに入所。IPO・VC監査、IFRSアドバイザリー、価値算定業務に従事する。2013年に株式会社メタップスにIPO責任者として入社し、上場を実現。2021年に IPO協会 轟 一般社団法人を設立して代表理事に就任。


▶登壇者

株式会社ココナラ 執行役員CFO 中川 修平 氏

三井住友銀行の市場部門でディーリングを経験。その後、みずほ証券で大企業・成長企業に向けてコーポレートファイナンスの組成やアドバイザリー業務に従事。2018年10月より株式会社ココナラに参画。同社は2021年3月19日、東証マザーズに上場。


セーフィー株式会社 取締役 経営管理本部長 兼 CFO 古田 哲晴 氏

マッキンゼー・アンド・カンパニーにて多様な産業領域でコンサルティングを経験。その後、産業革新機構で海外投資・ベンチャー投資に従事。2017年にセーフィー株式会社に入社し、経営管理本部長兼CFOに就任。同社は2021年9月29日、東証マザーズに上場。


株式会社Finatextホールディングス 取締役CFO 伊藤 祐一郎 氏

UBSの投資銀行本部でIPOやグローバルM&Aのアドバイザリー業務に従事。2016年に株式会社Finatextに参画しCFOに就任。同社は2021年12月22日、東証マザーズに上場。


freee株式会社 取締役 CFO 東後 澄人

マッキンゼー・アンド・カンパニーでIT・テクノロジー・製造業界を中心に多数のプロジェクトを担当。その後、Googleにてマーケティングおよびビジネス開発などに従事。2013年にfreee株式会社に参画し、COOとして事業拡大をけん引。2019年より同社CFOに就任。2019年12月17日、日本のSaaS企業では初となるグローバルIPOを実現する。


各社の紹介

加藤:まずは簡単にIPO協会の紹介をします。IPO協会を立ち上げたのは2021年2月。日本ではこの20年の平均で年間100社しかIPOをしていないという現状があり、経済損失につながっているという問題意識を持っています。上場2年前の監査法人契約数(N-2以降)でいうと1000社、そこから上場に到達するのが100社で、900社はIPOをしていません。

IPO協会 轟では世界で初めて、日本の4つの証券取引所と10個の市場、そしてNからN-3までの4期間をスコア化したIPO登録スコアというものを作り、正会員・準会員を募集しながら、IPOの啓蒙を進めています。

中川:ココナラに入社したのは2018年で、2021年3月にIPOを果たしました。ココナラは、知識・スキル・経験を売り買いできるマッチングサイトを展開していますが、今日はビジネスユーザー向けに展開している「ココナラビジネス」を紹介します。

ビジネスの成長過程では、「この部分は誰かに頼んで業務効率化したい」ということが多々あります。ココナラビジネスは大きく7つのカテゴリーを設けて、ビジネスユーザーの困りごとにお応えしていくサイトです。

事例を一つ紹介すると、創業時の資金調達をする中で使用するプレゼン資料の作成から、販促に使う漫画やキャラクターの制作、Excel自動化システムといった諸々をココナラで発注していただき、ご自身は本業に専念しているというケースがあります。バラエティに富んだカテゴリーを用意して、いろいろな法人ユーザーさんに使っていただけるサイトになっています。

古田:セーフィーにジョインしたのは2017年で、当時はまだ10名程度の社員しかいませんでした。そこから5年でIPOまで無事にたどり着くことができました。

セーフィーは、クラウド録画型映像プラットフォームを展開していて、いつでもどこでも安心安全に映像を見ることができるサービスを提供しています。クラウド上に保存した映像をいろいろなサービスや分析、防犯などと組み合わせることで業務改善やセキュリティ強化につなげるなど、幅広い用途に活用できるというものです。

市場シェアは約半数でして、幅広い領域かつ多くのシーンで使っていただいています。映像データを活用して現場の働き方を変える、「現場DX」を推進している会社です。

伊藤:Finatextにジョインしたのは2016年です。Finatextは2013年にスタートして、今は200名くらいの体制になっていますが、私が入社した当時は10名くらいでした。

事業内容はフィンテックソリューション・ビッグデータ解析・金融インフラストラクチャと大きく3つあります。弊社の場合、金融機関向けのフィンテック領域でスタートした後、少しずつ領域を広げていった形になっています。今のメインのビジネスは金融インフラストラクチャ事業で、金融機関の基幹システムをSaaS型で提供するという事業に注力しています。

いっけんfreeeさんと似ているかもしれませんが、弊社の場合は証券会社や保険会社など、どちらかというとSME(中小企業)というよりはエンタープライズ向けの業務システムをクラウドベースで提供している会社になります。

東後:本日はご参加いただき、誠にありがとうございます。freeeが上場したのは2019年なので、すでに2年ちょっと経過していますが、今日は2021年に上場されたCFOの方々をお迎えして、最新の事情をお伺いするのを楽しみにしています。

上場準備体制~上場にまつわる“伝統論点”

加藤:まずは上場準備の体制づくりや20年前くらいからいわれている伝統的な論点、たとえば稟議のワークフローやコンプライアンス、労務など「上場あるある論点」についても聞いていきましょう。

まずは中川さん、体制作りの論点ではいかがでしょうか?

 

中川:上場の体制作りは証券会社からアドバイスを受けたりしながらやっていくと思いますが、じつはココナラでも起きたし、この先、皆さんにも起こり得ることを話したいと思います。

上場は計画通りには進まないものですが、一方で事業というのはどんどん進んでいって、組織も大きくなっていきます。そうした中で、一度は「大丈夫だね」となったいろいろなものが古くなっていき、フェーズに合っていないということが起きるんですね。

たとえば、労務の伝統論点の一つに、どういう人が管理監督者になるかということがあります。小さい規模のときの管理監督者と、会社の規模が大きくなったときの管理監督者の役割や権限というのは、けっこう変わってきます。もちろん法改正もありますが、数年前までの規模ではOKだったものが今は労基法違反になるということがあり得るので、会社の成長とともにいろいろルールを作り変えないといけないわけです。

内部統制についても同様で、40~50人規模で社長の目が行き届くようなフェーズと、百名単位では事情が違います。本質的に何がリスクなのか、そこを押さえておかないといけない。上場の体制作りはタイミングによって変わってくるので、以前にアドバイザリーに教わった通りにやれば大丈夫ということはなく、本質に沿って自社に照らし合わせてアップデートしていく必要があるということは、私自身が実感した点ですね。

加藤:セーフィーさんはBtoBの事業を展開していますが、上場の体制づくりや労務の観点で、古田さんいかがでしたか?

 

古田:当社の上場準備は、上場の3年前に経理部長と人事部長を採用したところがスタートでして、体制作りとしてはギリギリのタイミングだったと思います。外注していた経理業務を内製化するために、システムを入れるところから始めました。

じつは、このときに以前使っていたクラウドシステムを見直して、freeeさんを使い始めました。稟議とか内部書類とか、freeeさんをフルセットで使わせてもらっています(笑)。

その中で、どう稟議をチェックするかとか、承認体制をどうするかといったことを煮詰めるのに1~2年くらいかかりました。そのタイミングでコロナ禍になりリモート体制も必要になったのですが、クラウドベースに切り替えていて本当に良かったなと思いました。

また、今回新たにリリースされた「freeeカードUnlimited」も先行して使用させて頂いていまして、会計処理の中で請求書払いが多くなるとダブルチェックなどの工数が増えるので、精度を上げて工数を削減することを考えるとカード決済に寄せていきたいと。しかし、寄せた結果決済の確定が遅かったり、限度額の関係でカードが止まってしまうなどの問題がありました。

そのあたりが「freeeカードUnlimited」を導入したことで、リアルタイムに決済が連携されたり高い限度額を設定頂けることで課題が解決して楽になりました。

加藤:Finatextさんは子会社もあり、いろいろな拠点の管理も含めた固有の論点があると思います。そのあたりも含めて伊藤さんお話しいただけますか?

 

伊藤:弊社の場合、金融領域の規制業種になるため、きちんと切り分けをしていくことが必要で、従業員が200人くらいしかいないのに会社が8社あります。かつ、ベトナムの子会社など海外拠点もあるので、体制をどうするかという点はすごく難しい問題でした。

最初に上場準備の体制を立ち上げるとき、まずは連結経理を作らなければならなかったので、連結経理担当者と内部監査の方に入ってもらってスタートしました。最初に考えるべきだと思っているのは、規定まわりですね。稟議もそうですし、職務権限をどう作っていくかというところがけっこう大事かなと。

これが一つのビジネスであれば全社統一ルールでやればいいのですが、規制業種だったりすると、必ずしも同じルールをあてはめられないわけです。どこまで共通化して、どこから個社対応しながら最適化するのか、すみ分けするのに時間をかけました。

規制業種じゃなくても、ビジネスの性質が違っていたりステージが違ったりすると、統制のあり方も変わります。弊社の場合はエンティティ(事業体)が分かれていたし、規制業種ということもあって初めから強く意識できましたが、そうではないケースであっても、ベースとしての考え方をシェアした上でカスタマイズの柔軟性を持たせることが必要かなと思います。

すごく長いプロセスになるので、柔軟性をちゃんと確保しながら進めていくことがとても大事になってくると思います。

 

加藤:freeeさんは2019年にIPOをして、この2~3年で状況が変わってきているところもありますが、当時との比較で感じることはありますか?

 

東後:今のお話は伝統論点というだけあって、皆さん、やはり同じような苦労をされているのだなと実感しました。freeeのIPOのときも労務まわりのデータをしっかり取るとか、体制作りは苦労したポイントだったので、普遍的なテーマなのかもしれません。

freeeの上場は2019年12月でしたが、経理部長が入ったのは2019年の頭で、ファイナンスの責任者が入ったのは2019年の6月。このメンバーがすごいスピードでキャッチアップしてくれたから実現できましたが、そうでなければ、かなり厳しい状況になっていました。

データログを取るとか、いろいろなものをクラウド化することを先にやっておくと後々すごく楽というのはあります。とはいえ、わかっていてもなかなかできないのがIPOの難しいところなのかなと、皆さんの話を聞いてあらためて思いました。

調達・資本政策~VC or 証券会社、コーナーストーン投資、海外投資家の真意

加藤:2021年の日本のIPOの中でも、非常にヒストリカルなケースとなった3社を本日はお迎えしています。

上場時の株価は個人投資家からするとブックビルディングの2週間くらいの期間に見定めないといけないのですが、情報の非対称性という問題があります。海外の機関投資家とコミュニケーションすることで、安定的な株価形成をするというアプローチを図ったコーナーストーン投資は、2021年における大きな進化だと思っています。

freeeさんは2019年にグローバルオファリングして、2021年の進化に通じるところもあると感じているのですが、まずはその当時のお話をお願いします。

 

東後:ffreeeは上場するタイミングで、IOI(Indication of Interest)という、投資家の方からの株式取得意向の表明を英文目論見書に記載してもらうことを初めて行ったのですが、これは非常にやってよかったなと思っています。

トラックレコードがない中では投資家の方々は銘柄に対して不安を持つものですが、既存の投資家が価値にコミットしていることを示せるのは、ほかの投資家にとって大きな安心感になります。これはぜひやりたいと考えていて、証券会社の方にも調整していただきながら実現しました。

当時は、コーナーストーン投資はそもそも難しいだろうと思っていたので、選択肢には入れずにIOIの形をとりました。そう考えると、この2年間にIPOの常識が変わりつつあると実感しますね。

 

加藤:freeeさんのIPOを参考にした企業は多いと思いますが、ココナラさんのIPOについて聞いていきたいと思います。

 

中川:IPOのあり様というのも時代とともに変わったなと思いながら、freeeさんのIPOを拝見していました。

freeeさんのIPOを拝見したときに、私の中でめちゃめちゃ学んだことが2つあります。1つ目は、KPIの出し方にすごくこだわっていること。グローバルな投資家目線を意識した、わかりやすいものをしっかり作っていました。

2つ目はIOIです。freeeさんはグローバルオファリング(海外にも同時に募集・売り出しをする方式)の形で非常に大きな希望をされていて正式な形をとられましたが、弊社はそこまでの規模にはならないだろうという中で旧臨報方式(旧臨時報告書方式:英文目論見書を使わずに海外販売する簡易的な方式)をとることにほぼ決めていました。

freeeさんはグローバルオファリングでしたので、その中で利用できるIOIの形態でなさったわけですが、IOIは旧臨報方式では採用できないという制約があった。同じようなこと、つまり、コーナーストーン投資を旧臨報方式でもやれる方法が他にないかなと考え始めて、証券会社の方に協力していただきながら、どういう仕組みだったらできるのか、どういう論点があるのかを詰めていきました。その中で、「親引け」という仕組みを使えば実現できることがわかり、実行することにしました。

大事にしたのは、投資家目線から見て、いかに会社の魅力を伝えられるかということ。コーナーストーン投資によって、IPOにおける安定的なオファリングの消化も目的としてありますが、グローバルに投資している機関投資家が投資意向を示していることを事前に投資家に向けて発信することで、皆さんに安心して買ってもらえるかというところに意義があると思っています。

かなりハードルの高いことをやっていったので、「本当にそこまでやる必要があるの?」という方もいると思いますが、私はfreeeさんのIPOを見て、その後に続くベンチャーにとって意味のあることをやっていると感じたんですね。単にIPO自体が素晴らしいだけじゃなく、何かそういった意味のあることを私もやりたいと思ったんです。

今後続く方々にとって、いいファイナンスや資本政策をみんなで作っていけたらという思いがあります。まさに、セーフィーさんやFinatexさんは、ココナラのIPOを土台にして下さって本当に素晴らしいことを実現されました。

 

加藤:ココナラさんからセーフィーさん、Finatexさんへとつながっていく流れは、皆さん、気になるところだと思います。セーフィーさんのIPOはどうでしたか?

 

古田:まさに、次につなげるという意識はすごく強かったですね。ココナラさんは、じつはベンチャー企業向けの勉強会を開かれていて、私もそこに参加したのですが、ココナラさんが自分たちの学びを次に伝えたいという話をされていて、「おお!」と思いました。

弊社も海外機関投資家めぐりを始めたのですが、事前にコンタクトしたことはまったくなくて、上場の半年前に始めてコンタクトをとりました。そうしたところ、いろんな会社から「プレIPOファイナンスをやらないのか」といった話がたくさん出てきまして。いまさらそれをやって上場を延期するわけにはいかないなという中で、親引けという方法があるのかと。

一応ロジックとしては既存の株主による追加だからOKみたいな成立を聞いたのですが、「これは新規でもいけるでしょ」と思いまして、チャレンジすることにしました。

海外機関投資家に親引け・コーナーストーン投資という形でのIPOに興味があるか聞いたところ、「我々もIPOの事例を作りたい」と賛同してくれる方々がけっこういまして、それならトライしようということになりました。

 

加藤:セーフィーさんでは事業会社からの資金調達が多かったと思うのですが、これは意識的にやられたんですか?

 

古田:弊社はかなり珍しい資本政策だったかなと思っています。VCから資金を得て事業拡大するのは理にかなっていることですが、BtoBにおいて必要なのはお金だけじゃないと思っていまして。

やはりスケールするためにはパートナー企業の存在が重要になってくるので、事業提携だけでなく、資本を入れた関係になることで親戚付き合いのような関係性になるメリットがあります。

出資してくれるところはいろいろあった中で、すでに事業上の提携がある方々を優先的に絞らせていただきました。ただ、これをやり始めると、逆に純粋な機関投資家ないしはVCが入るとバランスを取るのが難しくなります。ですので、完全に割り切って、事業会社の方だけを集めるファイナンスを2回行いました。

 

加藤:FinatextさんのIPO、ファイナンスのところもお伺いしていきたいです。

 

伊藤:弊社も今回、コーナーストーン投資をやらせていただきました。もともとコーナーストーン投資は日本ではそういう呼び名があるわけではなくて、海外で使われている用語が転用されています。日本でいうと、親引けまたは並行第三者割当増資というスキームを通じて行われるものになります。

並行第三者割当増資は、もともと事実上は実現が難しい形になっていたのですが、規制が緩和されつつあって、何かできないかなと思って勉強していたときに、ココナラさんがやられているのを見て「やられた」というのが正直ありました(笑)。

もともと親引け自体は、売出人が特定の株主に指定して株を割り当てるということを行うものです。それ自体、原則的には禁止されているのですが、特定の理由がある場合のみ親引けを行うことができます。

従来は、事業会社との業務資本提携のために使うことが一般的でしたが、ココナラさんは、既存の投資家への割当に適用いたしました。弊社はそれをさらに、新規の投資家への割当に適用したので、そういう意味ではココナラさんの事例があったおかげだと思っています。

まず既存投資家が大丈夫というのが確認されて、次のステップとして弊社のケースができたわけです。その前にfreeeさんのIOIの流れを汲んでいるので、この2年くらいの間に一つひとつ実務レベルでの確認がなされながら、プラクティスが積みあがってきたと思っています。

そもそも親引けに注目した理由は、freeeさんのIOIの論点と同じで、競合他社がいない中で価格の目線感はどれくらいが適正なのかということがあります。基本的には証券会社と機関投資家の協議の中で決まっていくものではありますが、第三者的な評価でも大きくズレていないよねと感じてもらえる環境をどう作っていくかというところで、親引けの形をとりました。

日本の場合、IPOをする会社がまだまだ少ない現状があるので、バリュエーションを評価するときに参考になる類似企業がなく、これくらいの評価だよねという基準を簡単に作れないんですね。

欧米では似たような会社がいっぱいあるので評価がしやすかったり、コンセンサスを作りやすかったりしますが、日本では値決めが本当に難しい。そういう中で、コーナーストーン投資みたいなものを通じて、一定のコミットをしていただくことで価格の適正性を第三者的にも見ていくということは、今の日本においてすごく有効性が高いと思っています。

フリーディスカッション~タイムマシンで過去に戻れたら?

加藤:上場前と後では見える景色も違うと思っているのですが、ここからは次に続く方に向けてのヒントとなるようなフリーディスカッションの時間にしたいと思います。タイムマシンで過去に戻れたら、こんなことをやっておいたほうがよかったということはありますか?

 

東後:上場する前は機関投資家の方と会う機会はほぼなくて、すでに上場されていたラクスルさんやメルカリさんなどの話を聞いて、こうやって海外の機関投資家と事前に話していいのかみたいな、そんなレベル感でした。

上場の段階になって実際に機関投資家の方と話してみると、プレIPOで入りたいという方がこんなにいるのかなど、いろいろな気づきがありましたね。そのときは選択肢になかったのですが、プライベートラウンドでの資金調達ができていたら、もっと違う世界になっていたのかなと振り返れば思うところもあります。

過去に戻って何かをしたいかというと難しいですが、選択肢は広がっていたかもしれないなと。

 

中川:IM(インフォメーションミーティング)だけでなく、プレIPOラウンドを含めて機関投資家と話せる機会が増えていると感じている中で、もっと積極的にディスカッションしていたらよかったなと私も思います。

上場してIRの頻度が高まってくると、向こうもディスカッションを求めていることがわかってきました。慣れていないと質問されたことに答えるのがIRみたいな感じで終わってしまうのですが、機関投資家も業界の将来に対するビューを彼らの視点で捉えているので、どこが面白いと思うのか、どこにリスクを感じるのかを聞くことができれば、事業にもIRにも活かしていくことができます。また、そこからディスカッションを発展させられるため、機関投資家もそういったことを望んでいます。こうしたことを上場前からできていたら良かったなと思います。

 

伊藤:IPOの準備とプレIPOを同時に走らせるのは、バリュエーションをどう作っていくかという観点でけっこう難しいですね。上場のタイミングでのマーケット状態の良し悪しがある中で、直前に入ってきた方にもちゃんと価格がつくようにといったことを考え始めると、プレIPOの価格はいくらであるべきかという議論をちゃんとしなければならないですよね。

そういう意味で価格決定とタイミングというのはすごく難しかったので、プレIPOをやる場合は、IPOをする1年半前とか2年前には検討していかなければならなかったかなと思っています。

 

古田:海外機関投資家というと身構えちゃって、英語で資料を作り直さないといけないとか、リソースがいるし面倒だし、先送りだったのがすごい間違いだったと今は思っています。

海外といいながら、日本語がわかる人がけっこう多いということを知らなかったですし。全然気さくに話せて、いろいろなアドバイスももらえるし、お客さんの紹介までしてくれたりして、これは怯えずに会っていればよかったなと(笑)。

リソースの面でいうと、私は少数精鋭という言葉が好きなのですが、IPOのプロセスでそれを用いた自分を殺したい(笑)。間違いなくリソースはいっぱいあったほうがよくて、自分の代わりに説明できる人がいないとプロセスが回りません。

ちゃんとスタッフを揃えて、手前の段階から機関投資家に会いに行ったりして準備を固めると、選択肢が圧倒的に広がると思います。振り返ってみての後悔でいうと、リソースの部分ですね。

フリーディスカッション~価格の目線感は?

加藤:200億から300億くらいのIPOでは臨報方式、500億や1000億円の規模でグローバルオファリングという目線感かなと思っているのですが、皆さんはどうでしょうか?グローバルオファリングも、一昔前よりは手が届きやすくなっている感覚がありますが。

 

東後:明らかに一般的になってきていると思います。投資する側も、プレIPOに興味を持つ方が増えていることを考えると、さらに身近なものになっていくと思っています。ただ、グローバルオファリングはコストがかかるので、この部分が変わらないとすると、規模感は一定までしか下がらないのかなとは思いますね。

 

中川:レイタ―ステージのファイナンスが広がってきているので、IPO自体も今後の方々が目指すところは大きくなってきていると思います。まず、旧臨報方式でなくグローバルオファリングをする最大の意義は、北米の投資家に対して能動的に勧誘ができるか否かです。1000億どころか2000億円以上を目指す方々は、大きなプレイヤーがいる北米を狙うことになるのでグローバルオファリングになってきます。

昔は旧臨報方式では海外機関投資家が49%までしか入れなかったが、その制約もココナラのIPOをきっかけに取り除けるようになったことで、今は旧臨報方式でできることも広がってきています。そういう意味では、旧臨報方式でもオファリング金額の目線を上げていっていいのではないかなと。

 

古田:北米を狙うなら本来的にはグローバルオファリングですが、弊社は旧臨報方式でやってみて、実態としてけっこう北米も入ってきてくれた感じがあります。旧臨報方式でも海外機関投資家を集めることができるようになってきているので、コスパがいいというのは正直なところですね。

ただ、最終的には海外もやるということを考えると、余力があるならグローバルオファリングでいくほうが本来的には正しいと思います。

コーナーストーン投資でいうと、一口20億円というのが肌感覚です。機関投資家の方々のロジックとして、自分たちのポートフォリオの中でバランスを保っていく中で100億円くらいの成長をしてほしいとなると、入り口の時点で20~30億円くらい持てていないとコアアセットにならないという感覚があるようで。

ただ、弊社の場合、特定の投資家に多く配分しすぎた結果、他の投資家が一口1億円程度になってしまい渡しすぎてIPOのときにお叱りめいたことを言われてしまったことがありましたので、時価総額だけでなくというよりもオファリングサイズもが重要かなと思います。

 

伊藤:私はもともと証券会社でグローバルオファリングの実務をやっていたんですけど、本当に大変です(笑)。よほどの意思を持って、やる意義をきちんと作っていないと難しいので、私は選択肢に入れませんでした。

一定の規模を超えてきた会社であれば選択の余地はあると思いますが、グローバルでやったほうがいいというのは3000億円や4000億円のレベル感だと思います。お金の問題もありますが、工数がものすごくかかるので、北米の投資家を狙いたいなど、やる意義をちゃんと持っていないと途中で疲弊しちゃうかなと。

コーナーストーン投資の規模感は、私もいろいろな方と話してみて一口20億円という感覚があるので、逆算すると案件サイズが200億円以上は必要になります。明確に割り当てることも大事ですが、せっかくの機会なので、幅広い方に株主になっていただくことも大切なことだと思っています。

流動性も含めて、ある程度幅広い株主数ということを考えると、200億円くらいの案件サイズがないと、いいバランスが作れないかなと思います。

メッセージ

加藤:それでは、各社からメッセージをいただければと思います。

 

中川:今日お話ししたことは昨年の時点ではそうだったということで、この先、私たちがやってきたようなことを土台にして、皆さんの時代で考えていくものだと思っています。

これだけグローバル市場でグロース銘柄が売られている中でいうと、今後も引き続き日本のスタートアップに注目してくれるかどうかはわかりません。その時々のビジネス、市場を見ながら、いいIPOを作っていただければと思っています。

 

古田:脈々と受け継がれたノウハウのバトンを渡していきたいと思っているので、IPOを検討されていて、弊社の事例を聞いてみたいという方は、ウェルカムです。現在もスタートアップ企業のCFOの方々と面談して事例紹介などをやってきているので、興味を持った方はぜひコンタクトしていただければと思います。

 

伊藤:スタートアップで上場する会社が増えていくと、バリュエーションの議論などで解決できることが一定数あると思っています。IPOはもちろん手段であって目的ではありませんが、より良いものになっていくといいなと思っていますし、そこに向けて私自身も情報を発信するようにしています。ぜひ皆さんも積極的に発信して、一緒に盛り上げていけたらなと思っています。

 

東後:皆さんのコメントの通りだと思います。業界が盛り上がっていけばいいなと思いますし、そこに貢献していくことが大事だと思っています。2022年、2023年と、どんなIPOがあるのか楽しみにしております。

「freeeカード Unlimited」をリリース

加藤:最後に、freeeさんがリリースした非常に先鋭的なコーポレートカード「freeeカード Unlimited」についてご紹介いただければと思います。

 

東後:本日リリースした「freeeカード Unlimited」について簡単に紹介します。freeeは「スモールビジネスを世界の主役に。」というミッションのもとサービスを提供していますが、なかでもIPOをするスタートアップ企業は大切なお客様になっています。freeeとしてもしっかりサポートしていきたいという思いがあり、経営を強くする統合型コーポレートとしてリリースしました。

スタートアップがカードを利用する上では、限度額が足りない、経営処理が遅れがちといった統制管理が難しいということが課題にあがっていました。これに対し、最大5000万円の与信額をつけて、オーソリタイミング(当日中)での会計連携、リアルアイム通知といった機能を付けたのが「freeeカード Unlimited」です。

当然ながら改正電子帳簿保存法にも対応していますし、限定イベントへの参加や海外加盟店での利用など、スタートアップの方々にとってより優しいカードになっています。今回、リリース記念キャンペーンとして最大50万円のキャッシュバックも行っているので、興味がある方はお申し込みいただければと思います。

詳しくはこちら

 

――登壇者の皆様、ありがとうございました!

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