2022年2月2日 コラム

「アレルギーでも食べられる」に気付いてほしい。膨大な食品データベースを軸につくる食事制限改革

【連載コラム】女性起業家の経営とファイナンス


女性ならではのアイデアや感性を活かし、革新的なサービスを提供する女性起業家。この連載では今注目の女性起業家にフォーカスし、経営者としての視点やリアルな体験をインタビュー形式でお届けします。

今回は、17万9500点(2021年11月時点)もの食品データベースを構築し、食物アレルギーに悩む方々へのソリューションを提供している株式会社ウィルモアのCEO 石川 麻由さんにお話を伺いました。


●インタビュイー:
株式会社ウィルモア 
CEO 石川 麻由さん

●プロフィール
日本女子大学卒業後、重工業会社、音楽業界、大手インターネットサービス企業、コンサルティング会社、医療情報のベンチャー企業を経て2009年に株式会社ウィルモアを創業。バーコードをかざすだけでアレルゲンを含む食品がわかるアプリ『アレルギーチェッカー』と、アレルゲンを含まない食品を検索・購入できる『クミタス』を展開。食物アレルギーや食事制限に悩む人へのソリューションを提供すると同時に、ヘルスケア領域のリサーチ事業、食品メーカーのPR・食品開発支援に取り組む。

起業のきっかけ

何をしたら病気予防になるのかを考えたことが始まり

――食物アレルギー領域での事業を展開されていますが、どのようなきっかけ・経緯で起業されたのでしょうか?

父が入退院を繰り返したり、周囲にまだ若いのに病気で亡くなってしまった方がいたりという状況を経験した中で、病気にならないためにはどうすればいいのか、予防領域に興味を持つようになりました。その後、ヘルスケア領域の会社に転職したのですが、そこは終末期をメインとする事業で、私はやはり病気になる前の段階でできることを模索したいという思いが強く、起業を考えるようになりました。

その後、2009年に企業し、最初は「何をしたら“予防”といえるのか」という、予防領域を特定するところから始めました。

たとえば、風邪をひかないようにするための生活の工夫はありますが、予防策としての根拠に乏しかったりします。また、頭痛の予防法はあったとしても、じつは別の疾患が隠れていて見落とすようなことになってしまうケースもあり得ます。そう考えていったときに、食物アレルギーというキーワードが出てきました。

食物アレルギーは原因となる食物を食べなければ、一時的な予防になります。生活の中に取り入れられる予防策であり、有効性のある領域という観点でも事業化できると考えました。また、私自身が幼少の頃からアレルギーやアトピー性皮膚炎に悩まされてきた経験があるので、食事を用意する母の負担も実感していました。こうした原体験も起業のきっかけになっています。

――食物アレルギーは幼少の頃に発症するだけでなく、大人になってから発症するケースもありますか?

食物アレルギーは子供の頃に発症するのが普通と思われがちですが、成人してから発症するケースもあります。

たとえば、日本は花粉症の方が多いですが、交差反応といって関連するアレルゲンが果物や野菜にあり、花粉症になってから発症するケースもあります。ほかにも小麦粉を多く吸入するような職場で、体内に入っていく量や頻度が増えるなかで発症する職業性アレルギーの場合などもあります。

アレルギーにおいては様々なタイプがあり、食物摂取と運動などの負荷が合わさりアナフィラキシーが誘発される食物依存性運動誘発アナフィラキシー、また消化器症状を中心とした新生児・乳児消化管アレルギー、好酸球性消化管疾患などもあります。食物アレルギーの検査では、原因と考えられる食物を摂取し、症状が出現するかを確認する食物経口負荷試験が病院で行われています。

事業内容について

膨大な食品データベースの構築にはメーカー・スーパー・ユーザーも協力

――事業内容を具体的に教えてください。

長年かけてデータを集めて構築している食品データベースが当社の強みとなっています。

食品データベースを活用したサービスとして、2つ展開しています。先にリリースしたのは、アレルゲンを含む食品かどうかをチェックできる『アレルゲンチェッカー』というアプリです。

食物アレルギーがある方は食べられる食品を探す上でご苦労されている面があり、まずは食品購入の手間を省こうと考え開発しました。

アレルギーチェッカーは、食品のバーコードにかざすだけでアレルゲンを含んでいるかどうかがわかるというもので、スーパーなどの店頭で実際に食品を手にとって購入する場面をメインに想定しています。

食品のラベルにはアレルゲンの表記がされているものもありますが、ラベルが小さくて読みづらかったり、商品を逆さまにしないと見えなかったり、場合によっては値引きシールが貼られて見えないこともあります。あとは「乳酸とあるが、これは乳なのか?」と迷ってしまったりするような原料もあるので、手軽にサクサク確認できるツールとして利用していただいています。

アレルギーチェッカーをリリースした後に、「食べられるものが何かを知りたい」という声が多くなり、『クミタス』というWebサービスをリリースしました。クミタスは、アレルゲンを含まない食品を検索して購入できるというサービスです。食物アレルギーの方以外にも、マクロビ、ビーガン、ベジタリアンなど主義的に食べ物を選択されているユーザーさんも3割程度いらっしゃいます。

――アレルギーチェッカーの対応品目は2021年11月時点で17万9500点、クミタスでは40カテゴリーの食品に対応されていますが、この膨大なデータベースはどのようにして構築していったのでしょうか?

最初にローンチした時点では5000~6000点程度でしたが、今は流通されている食品のおよそ7割はカバーしています。スーパーなどに置いてあるナショナルブランドであれば、8割以上になると思います。

海外では定番の食品が比較的多くを占めるのですが、日本の場合、新商品や期間限定商品などアイテム数がとても多く、かつリニューアルも頻繁に行われるのでウォッチを続けていくのは本当に大変ですね。

自前で収集しているほか、食品メーカーさんから直接情報をいただいたり、スーパー経由で収集させていただいたりすることもあります。あとは、アレルギーチェッカーにユーザーの投稿機能がありまして、ここから情報提供していただいているものが全体の6%ほどになっています。

食物アレルギーがあっても食べられるものが多いことに気づいてほしい

――能動的なアレルギー情報の提供など、ユーザーのロイヤリティが高いという印象があるのですが、起業してよかったなと感じるのはどんな瞬間でしょうか?

この事業は、ユーザーさんの反応が原動力です。アレルギーチェッカーをリリースしたときは、ユーザーさんから「アレルギーに目を向けてくれて、ありがとう」といった声をたくさんいただいきましたし、「サービスを長く続けていってほしい」という声は今もいただきます。

お子様たちと触れ合う場でクミタスの画面を見せて「卵・乳・小麦」のアレルギーがある場合の検索結果を表示したときに、「こんなに食べられるものがあるんだ!」とすごく喜んでくれたことがありました。食物アレルギーにおいては、一度食べて症状出現しなかったものは商品が改訂していなければ安心して食べられるという受け止め方になるので、新しい食品に挑戦するのは心理的にハードルが高くなりがちです。

設立当初から、食物アレルギーがあってもたくさん食べられるものがあることに気づいてもらったり、食べ物の選択肢を広げてもらったりということをしたかったので、感謝の言葉やユーザーさんの笑顔は励みです。必要とされている限りは、長く続けていきたいと思っています。

――食物アレルギーの領域は、事業としての責任やリスクも重いのではないでしょうか。

食品データベースの正確性は、とても注力していることです。ただ、輸入食品などで表示自体に誤りがあるケースも中にはあり、以前にユーザーさんから「表示上は記載がないが症状が出る」という問い合わせをいただいたことがあります。輸入者さんと保健所とともに調べたところ、表示されていない成分が使用されていることがわかり回収に至ったことがありました。

運営者としても気付きの機会になりますし、毎回の問い合わせ対応はできる限りしっかり行い、ユーザーさんと信頼関係を構築することをとても大事にしています。

収益化と資金繰りについて

様々なメディアに記事提供しながら露出度・認知度を高めていった

――ビジネスモデルはどのようになっているのでしょうか?

主な収入源となっているのは、リサーチ事業と企業様がクミタスのページ上に掲載するPR・広告の売上、データベースの一部を有料で提供するデータベース事業です。

リサーチ事業は患者さんや医師、コメディカルを対象としたメディカルリサーチで、海外の製薬会社様などから依頼を受けています。このほか、食物アレルギー対応食品の販促支援や商品・サービスの開発、飲食店のアレルギー情報管理、学校行事などで扱う食品の選定なども行っています。

データベース事業や広告売上は、データやユーザーが集まれば収益化できるのではと想定しておりました。リサーチ事業は前職から経験を積んでおり、設立当初から展開してきた形です。

――収益性や認知度を高める上で、どのようなことに取り組まれましたか?

アレルギーチェッカーをリリースした後は、食物アレルギー領域という新規性もあって、テレビや新聞、雑誌などのメディアで取り上げていただく機会をたくさんいただきました。

ただ、取材を受けた後は瞬間風速が上がるものの、認知度を高めるには継続的な露出が重要だと思っています。とはいっても、公告をたくさん出せるほど潤沢な予算があるわけではないので、いろいろなメディアに記事提供をしながらクミタスへの流入を図るといったことをやってきました。

記事提供の実績を上げると、『日経ウーマンオンライン』やドコモ様のメディア『ママテナ』、イード社様の『リセマム』や『絵本ナビスタイル』などがあります。このほか、弊社がコンテンツ作成を協力することでハウス食品様やヱスビー食品様がHPにクミタスのバナーを貼ってくださっています。こうしたお金をかけない施策を打ちながら、定期的な流入を増やしています。

――資金繰りや資金調達ではどのような工夫をされていますか?

基本的にはコストを抑えながら、限られたリソースでどこまでパフォーマンスを上げられるかということの繰り返しですね。

設立当初は、食物アレルギーの領域は一部の人の困りごとのように捉えられたり、スケールが難しいのではと思われたりして、事業として理解を得るのが難しい場面もありました。

サービスを提供する上では安定運用する必要があるので、資金はある程度手元に確保できるよう意識しています。

今後のスモールビジネスの世界をこう見る

リスクとスケールのバランスをどう取っていくか

――今後のスモールビジネスで、勝ち残る企業と消える企業の分かれ目はどこにあると思いますか?

時代とともに変わり続けるものだとは思いますが、今は企業や経営者の誠実さが求められていると思います。事業を行っている限りネガティブリスクはあるという前提で、その対応やフォローを織り込んだうえで経営していく必要があります。問題が大きくなる前に対処することも重要です。

ただ、リスクにとらわれすぎると、スケールと反比例してしまうところもあります。かといってスケールばかりを狙っていると、おろそかになってしまうところも出てきます。スモールビジネスの場合は資金力でカバーできないことも多々あるので、リスクとスケールのバランスをとることが大事になってくるのではないでしょうか。

――これからの女性起業家に必要なことは何だと思いますか?

当社の場合は事業領域的に先行ポジションでやってきましたが、新規性を評価される一方で、先行例がないために理解してもらえないという経験もしました。また、一所懸命に畑を耕したと思ったら、新しい人たちがどんどんやってきて差別化が難しくなることもあります。

なぜ10年間やってこれたのかというと、やはりこの仕事が好きだからということに尽きます。短期的な構想であれば収益を重視するという考え方もあると思いますが、継続したいなら、自分が好きなことは何かをじっくり考えてから始めたほうがよいと思います。

――今後、石川さんが挑戦したいこと、成し遂げたいことを教えてください。

食物アレルギーは社会課題だと思っています。会社を設立した2009年に、給食を食べた生徒が亡くなられるという痛ましい事故がありました。当時は食物アレルギーに対する理解が今ほどではなく、それを主事業とするプレイヤーもほとんどいませんでした。

時代とともに理解が進み、今は学校や医療の体制も進化しています。そういう意味では、これまでの10年間とはまた違ったフェーズに入っていると思っています。今後は、食物アレルギーにおけるアンメットニーズへのさらなる対応、また、“食事制限”というキーワードを軸にした横展開も考えていきたいです。

(インタビュー:土井 啓夢 文:社 美樹)

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出版社に18年勤務。編集長、メディア設計、営業統括、システム開発PMと畑違いの職務で管理職を経験。現在は数々のメディアで企画・編集・執筆を手掛ける。得意領域は実践も積んでいるメディア企画系、人事・マネジメント系、ビジネス系、医療・美容系。インタビュー経験は200件以上。Webライティング講師も務める。

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