2021年5月7日 コラム

【対談企画】freee×サイトビジット~スモールビジネスの世界はどう変わるのか?~ freeeが電子契約サービスを提供するサイトビジットをグループ化した理由

freeeが電子契約サービスを提供するサイトビジットをグループ化した理由

2021年4月、freee株式会社は電子契約サービス「NINJA SIGN」を提供する株式会社サイトビジットの発行済株式の70%を取得し、子会社としてグループ化。今後freeeが提供している統合型クラウドERPサービスに、電子契約サービスが加わります。

サイトビジットは「リーガル×テクノロジーで社会のインフラになる」というビジョンのもと、法曹界のエキスパートである強みを活かし、法律資格獲得のためのオンライン学習サービスを提供。2019年にリリースした「NINJA SIGN」は、契約書の作成から締結、管理までをクラウド上で行えるワンストップ型の電子契約サービスとして、目覚ましい成長を遂げています。

今回のグループ化により、freeeが提供する統合型クラウドERPの可能性がさらに広がり、スモールビジネスに新たな価値を提供するための大きな一歩になるといいます。M&Aという選択に至った経緯や見出しているメリット、両社が目指す世界観について、freee株式会社CSOの武地 健太氏、株式会社サイトビジット執行役員の須山 敏彦氏にお話を伺いました。

インタビュイー

freee株式会社
CSO 武地 健太 氏

株式会社サイトビジット
執行役員  須山 敏彦 氏

グループ化によって実現したかったこと

グループ化により実現したかったこと

スモールビジネスの世界を広げる3つのステップを実現する

――freeeが提供する統合型クラウドERPに法務契約業務をカバーする「NINJA SIGN」が加わるメリットは大きいと思いますが、グループ化により何を実現したかったのかを教えてください。

武地:実現したいことは大きく3つあります。freeeは「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、スモールビジネスを行っている方々がイノベーションを起こしやすい環境を作っていくという方針で事業を行っています。これまで会計や人事労務の領域でサービスを提供してきましたが、法務領域ではまだまだペイン(課題)が残っていて、これを解決したいというのが1つ目です。

 

実際、契約書についてはよくわからないというスモールビジネス経営者は少なくなくて、なかには、気づかないうちに自社に不利な契約を結んでしまっているというケースもあります。スモールビジネスのイノベーションのポテンシャルを守り、創造的な活動にフォーカスできる環境を作るためには、法務領域のこの課題解決は非常に重要であると考えていました。

 

2つ目は、スモールビジネスにとって、より使い勝手の良い統合型クラウドERPを実現するためです。freeeの統合型クラウドERPの強みの一つに、ワークフロー(取引とそれにまつわる業務の流れ)を押さえられるということがあります。ワークフローを逆側から見ると、まず財務諸表という最終形がありますよね。たとえば、財務諸表の数値で大きい支出があった場合、何に対する支出なのか、誰が承認したのかまで遡って見ることができます。

 

ですが、承認した支出はどんな契約に基づいているのかというところまでは、現状のfreeeでは見ることができません。この部分を追えるようにするのは非常に大きな意味があって、財務諸表からインサイトを得て、場合によっては契約そのものを是正していくことができるという点で、スモールビジネス経営に大きな価値を提供できると考えています。

 

3つ目はBtoB取引をクラウド上で管理できる取引プラットフォームを作り、将来的にはそこでスモールビジネスの方々が取引できるようなサービスを提供したいという目標を達成するためです。取引のフローを分解すると、契約から受発注、与信、請求、決済があり、それらの債権管理や会計といった要素が加わります。現在、freeeでは請求・債権管理・会計が可能な「会計freee」に加え、「freeeスマート受発注」「freeeカード」というサービスを提供していますが、さらに契約を加えると、取引プラットフォームのパーツが揃い、今後の展開が広がっていきます。

 

この3つは、実現したい時間軸が短いものから長いものの順番になっています。このように、freeeの将来像に大きなインパクトのある法務領域に強いサイトビジットがグループに加わったことは、非常に大きなメリットだと思っています。

 

――サイトビジットではスモールビジネスの法務について、現状どのような課題があると考えていますか?

須山:スモールビジネスが抱える法務の課題は、規模や業種、事業フェーズなどによって変わりますが、そもそも課題として認識されていない、あるいは何が課題となるのかを把握していないケースが少なくないというのが現状です。しかし、会社がきちんと成長していくと、必ず法務の壁にぶつかります。

 

少なくとも従業員が30人を超えている企業では、仮に意識していなかったとしても課題が眠っている状態だと考えられます。もっと少ない人数でも、事業内容によってはしっかり対応すべき場合もあります。BtoBでは、小規模であっても契約書が必要となるケースが多いのでペインを感じやすい傾向はありますが、まだまだ口頭契約を続けているところもあるというのが実際のところ。BtoCでは、たとえば塾や習い事の業種を見ると、紙の同意書を使っていることが多いのですが、同意書も契約書の一種です。紙から電子化へのニーズはあるものの、そもそも運用フローが煩雑になっているという課題も多く見られますね。

お互いに感じた魅力とは

お互いに感じた魅力とは

アセットを補完し合える関係と「人と人」との相性

――サイトビジットでは今回のグループ化に際し、freeeのどんな点に魅力を感じましたか?

須山:私たちは事業が成長して社会に貢献できることを選択の柱としてきました。その考えのもと、freeeと一緒に取り組むほうがよいという意思決定をしたわけですが、そこに至ったのは大きく3つの魅力を感じたからです。

 

1つは、freeeが日本有数のSaaS企業として蓄積してきた有形・無形のアセットがあること。当然、資金的なところも含まれますが、事業の成長を加速させるうえで、freeeの過去の成功や失敗から得たノウハウ、ナレッジには大きな価値があります。freeeではKPI管理やシステム投資といった判断における、あらゆるノウハウを再現性のある形で蓄積されています。たとえば、SaaSのメトリクスは公開されていますが、それをどう達成するのかというエクセレンスが求められる中で、freeeのノウハウを活用できることはとても魅力的でした。

 

2つ目は、「人と人」という観点での相性の良さですね。freeeの方々とお話をさせていただく中で、単なる子会社という位置付けではなく、一緒に成長していくための土台をつくりたいという思いが伝わってきました。信頼関係を基盤にした、お互いに尊敬し合えるパートナーという状態をディールの間に築けた点は大きいですね。こうした関係性を作れた背景には、両社の経営理念が同じ方角を向いているということもあると思います。

 

3つ目は、社会のインフラとなるサービスを提供するというサイトビジットのビジョンを達成するために、その可能性を引き上げてくれる座組であること。法改正もあって、電子契約市場は予想以上の盛り上がりを見せていますが、freeeと一緒に進んでいくことは正しい選択だと思っています。

――freeeではサイトビジットとの相性について、どう感じていますか?

武地:freeeのCEOの佐々木とサイトビジット代表の鬼頭さんは、経営スタイルが似ているところがあると個人的には感じています。二人ともとても前のめりで、チャレンジしながら進んでいくタイプ。経営者のタイプが似ていることも、パートナーとしてやりやすい点といえるのかもしれないですね。

 

それと、サイトビジットの大きな魅力となっているのが、優秀な人材が多いこと。どんな会社でも、経営トップは思いの強さや行動力、姿勢の面で高いレベルにありますが、ナンバー2、ナンバー3がそれにどこまでついていけるか、理解して動けているかという点が、実は会社を成長させる鍵になります。サイトビジットには優秀な人材が揃っているうえ、freeeにいてもおかしくないと感じるくらい、カルチャー面でのフィット感がありました。

 

なので、今回のディールにおいても、単に法務領域の機能を追加するということではなく、スモールビジネスの課題を解決するための事業として、サイトビジットが中心となって伸ばしていけるスタイルをとっています。

M&Aという手段を選択した理由

M&Aという手段を選択した理由

モノづくりにおいては一緒に夢を追える座組が重要

――パートナーとなるための形態には出資や業務提携など様々な選択肢がありますが、今回、M&Aという手段を選んだ理由を教えてください。

武地:統合型クラウドERPにおける契約領域の追加や、取引プラットフォームの構想はfreeeが描いているプロダクトビジョンです。こうしたモノづくりにおいては、やはり一緒に夢を追いかけられる座組が重要になると考え、もっとも良い形がM&Aだろうという判断に至りました。

 

須山:freeeのグループに入るメリットはいろいろありますが、最後の決め手となったのは、サイトビジットの思いや個性を生かせるディールであったことです。

 

freeeはスモールビジネスを支援する事業として、資本市場においてもその価値が認められています。電子契約サービスではスモールビジネス領域ならではの難しさに直面することが多々あるのですが、freeeと一緒なら粘り強く腰を据えてやっていけると考えました。また、電子契約領域でナンバー1になるという目標において、実現の可能性が高まるという点も大きな魅力でした。

M&Aでとくに留意したこと

M&Aでとくに留意したこと

社員のモチベーションを支える「責任・裁量・インセンティブ」の仕組み化

――M&Aを進めるにあたって、とくに気をつけたことを教えてください。

武地:グループ入り後のサイトビジットの皆さんが引き続きチャレンジできる環境を作ることには、とくに注意を払いました。

 

スモールビジネス向けの電子契約は、これから市場を作らなくてはならない段階にあります。当然、簡単にできることではないので、これを実現するには責任と権限、実現した場合のメリットを明確にする必要があります。そのため、責任・権限・インセンティブがセットになった仕組み作りには、相当な時間とパワーをかけました。

 

今回のディールではfreeeがサイトビジットの発行済株式の70%を取得し、30%は代表の鬼頭さんがそのまま持たれるという形をとりました。サイトビジットの価値が上がれば株価が上がるので、企業価値の向上による恩恵をともに享受できます。社員に関しても、ストックオプションを残しています。親会社が上場していて、子会社が独自にストックオプションを発行するのは珍しいことですが、一緒に新しいマーケットを作るという非常に難しいチャレンジをするわけですから、実現したあかつきには、社員の皆さんがメリットを享受できる仕組みを作りたいという思いがありました。

 

そもそも、ストックオプション以外にもインセンティブの選択肢はいろいろあるので、スキームを一つずつ検証して、ベストな選択をするために相当なパワーを費やしました。そうした大変さがあるとしても、「freeeのM&Aはこのスキームです」と決め打ちするのではなく、それぞれのケースにおいて、お互いに理想的といえる形を実現したいという思いを持っています。

 

――M&AではPMI(統合プロセス)も一つのポイントになると思いますが、スムーズに進めるために、どのようなことに取り組まれていますか?

武地:まず、統合すること、しないことという判断があります。今回のケースでいうと、サイトビジットがスモールビジネス向けの法務領域を切り拓く役割を担うので、統合ありきではありません。

 

よりSaaS事業を長く手がけるfreeeからは、ノウハウを提供するのが基本スタイルとなりますが、たとえばリスク管理やAWSの運用など統合したほうが楽なものもあります。財務会計の方式など、制度上、統合しなければならないものもあるので、合計12分野で手法や精度の統合を進めています。

 

なかでも重要だと考えているのは、プロダクトのロードマップ作りですね。たとえば、freeeとサイトビジットでは微妙にペルソナの違いがあります。当然、プロダクトのフェーズも違うので、やり方を単純に合わせるものではないですが、2社の知見をあわせてロードマップを作り、スモールビジネスの課題解決ができるプロダクトに1日も早く進化させていくことが重要だと考えています。

 

須山:コーポレートの観点でいうと、答えがある領域・ない領域があって、たとえば財務会計のように統合しなければならない領域は進めればいいということになりますが、統合してもしなくてもよいという領域では、それぞれに判断していかなくてはいけない。基本的には、グループ全体として合わせたほうが効率的なことは合わせる方向性で進めています。

 

武地:もう一つ、重要な観点が人材交流ですね。マネジメントのポジションにある人を中心に進めていますが、どれだけ気持ちよくスムーズにコミュニケーションできるかということが非常に大事になってきます。たとえば、ノウハウを共有するという場面では、同じバックグラウンドを持つ人同士のほうが意思疎通を図りやすいですよね。そうした一つひとつのことに目を配り、最適なアサインとなるような配慮をしています。

今後のスモールビジネスの世界とは

今後のスモールビジネスの世界とは

やりたいことをやっていくのが、どんどん簡単になっていく

――今後のスモールビジネスの世界はどのように変化していくのか、どんな壁が想定されるのか、それぞれの見解をぜひ教えてください。

武地:freeeが提供する会計や人事労務の領域、サイトビジットのリーガル領域もそうですが、スモールビジネスの方々がやりたいことに集中できるためのサービスが進化すれば、やりたいことをやっていくのが、どんどん簡単になっていくと思います。

 

好きなことに挑戦しやすい世の中になれば、結果としてスモールビジネスを行う人が増えて、そういう生き方が当たり前の選択肢となる世界が近い将来に出来上がっているかもしれません。ですが、逆にいうと、従業員を確保するのが難しくなる可能性があるという見方もできます。従業員のやりたいことやモチベーションにしっかり応えていないと、会社として残っていくのが難しいという状況も起こり得るわけです。

 

今は正社員のほうが守られているという制度的なメリットがありますが、好きなことや得意なことをやりたいというときに選択肢が広がっている世界になるまで、そう遠くないかもしれない。そうした潮流も踏まえて、企業の構造をどう変えていくのかを考えることが必要になってくるのではないでしょうか。

 

須山:会社として今後起こり得るリスクの一つに、法改正やコンプライアンスの問題があるでしょう。スモールビジネスにおいては、そうしたリスクを事前に検知して対応する力が重要になってくると思います。それと、リーガルのリテラシーは大きな壁になる可能性があります。契約書の種類や雛形はたくさんありますが、たとえば、フォーマットひとつでスモールビジネスの方々にとって商取引上どうしても不利なものがあるのに、それに気づくことができないというケースがあります。

 

コンプライアンスやガバナンス、リーガルなども連携できる統合型のサービスが広まれば、こうしたリスクから解放されるわけです。スモールビジネスの方々が本当にやりたいことができて、かつ、しっかり守られている。そうした、不当に損をしない世界が作れたらいいなと思っています。

今後の展開

今後の展開

グループ化によって目指せる世界が広がる

――最後に、今後どのような展開を考えているのかを教えてください。

武地:グループ全体としては、統合型クラウドERPを作っていくのが当面の目標です。今回、M&Aという事柄がクローズアップされていますが、事業の目的はプロダクトを改善し、スモールビジネスの方々にマジ価値(本質的な価値)を提供していくことです。スモールビジネスの方々が簡単に使いこなせて、かつ経営の自動化ができ、やりたいことに注力できる世界を作る。これが軸であることに変わりはありません。

 

サイトビジットとやりたいことは、まずはスモールビジネスの電子契約のマーケットをつくり、課題を抱えている方々に価値を提供していくこと。NINJA SIGNはもともとスモールビジネスの方々にとっての使いやすさにこだわって設計されているので、ポテンシャルの高さを感じています。この領域でナンバー1になるための取り組みを進めていきます。

 

須山:グループにおけるサイトビジットの価値をしっかり発揮していきたいと考えています。事業としての数字はもちろんですが、たとえば、電子契約の領域で海外展開の検討もできます。サイトビジットが加わったことで、グループとしてこれまでできなかったことができる、目指せる世界が広がるというようなシナジーを生みだしたいですね。

(インタビュー:土井 啓夢 文:社 美樹)

 <strong><span style="text-decoration: underline;">社 美樹</span></strong>
社 美樹

出版社に18年勤務。編集長、メディア設計、営業統括、システム開発PMと畑違いの職務で管理職を経験。現在は数々のメディアで企画・編集・執筆を手掛ける。得意領域は実践も積んでいるメディア企画系、人事・マネジメント系、ビジネス系、医療・美容系。インタビュー経験は200件以上。Webライティング講師も務める。

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