2021年9月6日 コラム

資金調達をしたい場合に、どんな方法をどの順番で考えるべきでしょうか?[質問No.1]

~【教えて!やましゅうさん!】スモールビジネス経営者の資金繰りお悩み相談室~

「資金の相談をできる人がいない」「ファイナンスのスキル・ノウハウを高めたい」
これらは、多くのスモールビジネス経営者に共通する悩みでしょう。
このコーナーでは、経営者が抱える資金繰り・資金調達の悩みに、企業のコーポレート部門で責任者として資金調達や株式上場を主導し、現在は公認会計士・税理士として活躍する経験豊富な専門家が回答し、課題解決のヒントや新たな気づきを提供していきます。ぜひご活用ください。

資金調達方法はどんな優先順位で考えるべきか

Q. 資金調達をしたい場合に、どんな方法をどの順番で考えるべきでしょうか?

資金調達をしたい場合に、どんな方法をどの順番で考えるべきでしょうか?
小規模事業者にとって有利な資金調達方法というものがあるのでしょうか?
アドバイスをお願いします。

A. まずは助成金・補助金、次に銀行融資

一般に資金調達と聞くと、金融機関からの借入を思う浮かべる方が多いかもしれません。また、金融に詳しい方だと、株主出資であるエクイティ・ファイナンスも選択肢として思いつかれるでしょう。この2つが資金調達方法の二大巨頭ですが、助成金・補助金も立派な資金調達ですし、ほかにもファクタリング(2社間・3社間)やノンバンクからの借入、リースなども方法としては挙げられます。

ただ、どんな会社であっても、最高の資金調達方法というのは最初の元手である設立時の資本金を発射台にして、日々の営業活動の中で利益を出していくことです。剰余金(企業が生み出す利益)を積み上げていくことが、資金を作るという意味での原理原則です。

これを私はよく「PL(損益計算書)でお金を作ろう」と表現します。利益を出せる構造を持っている前提がなければ、事業を継続できませんし、借入も出資も期待できません。ですから、まずはちゃんと利益を出すことのできる事業を作ることが大事になるわけです。

優先順位の観点からも、まずはPLでお金が作れるかということが最優先。次に、リスクが少ないという点で助成金・補助金の活用。そこから資金調達の資金使途に応じて金融機関からの借入(デット・ファイナンス)や株主となる投資家からの出資である増資(エクイティ・ファイナンス)の順をおすすめします。

  1. (PL)自己資金
  2. (PL)助成金・補助金
  3. (Debt)銀行からの借入
  4. (Equity)株式の発行による増資

この理由を詳しく説明していきましょう。

優先順位の理由

借入でも増資でも、お金を出す側の立場から見ると、貴社にいったんお金を預けて増やすこと、つまり資産運用が大きな目的の一つにあります。ここで、資産運用の世界では「リスクとリターンは比例関係にある」という有名な原理原則があります。

「ハイリスク・ハイリターン」というフレーズならお聞きになったことがあるかもしれません。ここでいう「リターン」は、資金の出し手(金融機関や投資家)が資金の受け手(貴社)にお金を出したことで儲かる総額と考えてください。一方、この文脈でのリスクは、「リターンが上下にブレやすい度合い」を意味します。危険などのネガティブな意味が込められた日常用語とは少し異なり、上振れしやすいこともハイリスク、と呼ぶ点に留意が必要です。

ハイリターンを求める場合には当然リスクが高くなりますし、逆にローリターンで構わない場合にはリスクも相対的に小さいものを志向することになるのです。このリスクに見合うリターンのことを少し難しい言い方をすると、お金を出す側の「期待リターン」と呼んだりもします。

この点を理解した上で、エクイティ・ファイナンスとデット・ファイナンスの違いを見ていきましょう。

一般にエクイティプレイヤー(投資家)は、ハイリターンを期待して投資するケースが多いといわれています。なぜならば、理論上は貴社の事業がうまくいかなかったときには1円も回収することができず、貴社に出したお金を全額あきらめることすら想定されるからです。貴社としてはハイリターンでお返しする必要があり、高い期待リターンを満たすような事業を展開しなくてはならないということです。

一方、デットプレイヤー(貸付を行う金融機関等)は、エクイティプレイヤーと比べて相対的により低い期待リターンによる資金の出し手です。約定された元本と利息を回収するわけですから、実質的には数%の利息によるリターンといえます。それだけに、許容するリスクも自ずと低くなることになります。貴社としてはお返しこそ低いリターンでいいですが、より失敗する確率の低い、先の見えやすい事業で確実に利益を出し、そこから返済原資を作ることが求められるわけです。

リターンとリスクに基づく考え方でエクイティとデットを比べた場合、以上のような特徴がありますので、資金使途に応じて最適な資金の出し手を考える必要があるといえます。

エクイティとデットとを比較したときの特徴として、エクイティは貴社の株式を発行して、投資家株主に権利を売る行為です。その株式を得た投資家(つまり株主)の権利は、大きく2つあります。

1つ目は、その会社が得た剰余金の配当を受ける権利(上述の高い期待リターンを反映したもの)、2つ目は経営に参加する権利です。一度売った自社の株式はそう簡単には買い戻せないといわれ、結果として不可逆に株主として経営に参加する方が増えることが大きな特徴であることは忘れてはいけないポイントです。

かたやデットでは契約に定められた元本+利息を返済すれば基本的には経営に口を出されることはありませんから、この違いは大きいものとなります。

まだマーケットすら無いところに革新的なプロダクトを投入するような新進気鋭のビジネスモデルで急激な成長を見込むスタートアップ型の企業であれば、貴社の資金使途と投資家の期待リターンの相性としてエクイティによる調達を視野に入れる必要があるでしょう。

一方、多くの小規模事業者は十分に顕在化したマーケットにおいて自社商材の差別化を図ったり、受託を行いながら手堅い事業を営まれていると考えられます(例えば税理士のビジネスもそれに当たると思われます)。

その場合には、投資家の期待リターンに応えられるだけの事業を展開することは、現実的に困難ですし、またその必要もありません。そのため、金融機関からの借入によってできることを増やし、事業を伸ばすという選択が定石となるわけです。

もちろん、エクイティの性質に似たデットや、デットの性質に似たエクイティなど調達の手段は今回お話しした意外にも応用編はたくさんありますし、例外もたくさんあります。ですが、原理原則を踏まえると、まずはPLで資金を作るということが最優先であり、次に金融機関からの借入、その次に投資家への株式発行による増資の順で検討することが定石ではないか考えています。

なお、助成金・補助金に関しては公募内容に沿った条件を満たすことや申請が採択されることで返済不要な資金をもらえるわけですから、貴社に合ったものが募集されていないか、常にアンテナを立ててみてはいかがでしょうか。

更に資金調達の方法について詳しく知りたい方は、下記の記事を参考にしてみてください。

山本 修一
山本 修一

公認会計士・税理士
株式会社ロバスト・スチュワード 代表取締役社長

Ernst&Young(現EY)にて、国内上場企業や外資日本法人向けの会計監査および法人税務サービスに7年間従事。その後NXP Semiconductors(NASDAQ)の日本子会社での経理財務担当のポジションを経て、ランサーズ株式会社に入社。コーポレート部長として経営管理および上場準備業務を担当(同社は2019年東証マザーズ上場)。
同社を退社後は公認会計士事務所としての活動により、広くベンチャー企業の経営管理を外部からハンズオンでサポートするかたわら、自身もベンチャー企業の社外監査役を務める。2021年、株式会社ロバスト・スチュワードを設立し、なめらかな専門性を社会に還元するための事業開発に取り組む。京都大学経済学部経済学科卒業。

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