2021年10月18日 コラム

独自の与信ロジックによりスモールビジネスに最大3,000万円の限度額を実現

【インタビュー企画】『freeeカード Unlimited』開発の裏側


freee finance lab株式会社は、スモールビジネスの成長を支援するための統合型コーポレートカード『freeeカード Unlimited』のβ版を2021年秋に、冬に正式版をリリース予定と公表しました。

freeeカード Unlimitedは、従来の法人カードでは高い限度額を得ることができなかったスタートアップに向けて、freee独自の与信ロジックにより、柔軟かつ高い限度額を可能にしています。どのようにしてこれを実現したのか、開発にあたったプロダクトマネージャーの内山祥平さんとデータサイエンティストの福田幸太郎さんに、サービスの特長や開発の裏側についてお話を伺いました。


インタビュイー:
freee finance lab株式会社
金融事業部 プロダクトマネージャー 内山 祥平さん

freee株式会社
アナリティクスチーム データサイエンティスト 福田 幸太郎さん

●プロフィール
・内山 祥平
クレジットカード会社、メルペイでプロダクトマネジメント、開発に従事。2020年よりfreee株式会社に入社。プロダクトマーネジャーとして金融のプロダクト企画・開発に従事

・福田 幸太郎
大学院卒業後、アクセンチュアを経て、2019年freee株式会社へ入社。博士(理学)。
freeeでは、一貫して金融事業部におけるデータ分析、機械学習を活用したR&Dを主導。2021年7月よりアナリティクスチームのマネージャーを兼任

●『freeeカード Unlimited』の概要
・発行元:freee finance lab株式会社
・カードブランド:VISA
・年会費:無料
・限度額:最大3,000万円(β期間後、増額の予定)
・入会資格: 20名以上の法人またはVC等から資本性の資金調達をしている法人
・提供開始:β版/2021年秋 正式版/2022年冬にリリース予定
・特徴:
 1.独自の与信ロジックによる柔軟で高い限度額
 2.freee会計との同期によるリアルタイムの利用明細連携
 3.利用ブロック設定による不正利用の制御
※「freeeカード Unlimited β版」への申し込みはこちらから

『freeeカード Unlimited』の特長は?

独自の与信ロジックによる高い限度額・freee会計とのスピーディな同期を実現

プロダクトマネージャー 内山 祥平さん

――freeeカード Unlimitedは従来の法人カードに比べてどこが大きく違うのか、サービスの特長を教えてください。

内山:freeeカード Unlimitedは、スタートアップやスモールビジネスに向けた法人カードになります。特長は大きく2つです。

1)独自の与信ロジックでスタートアップ・スモールビジネスでも高い限度額が可能

内山:まず1つ目は、当社独自の与信ロジックで限度額を設定していることです。従来のスモールビジネス向けの法人カードの審査では、その会社の代表個人の信用情報を中心に、業績や社歴などを踏まえて与信、限度額設定がなされてきました。freeeカード Unlimited は、法人自体の信用力のみに着目し、各銀行の入出金データや会計データ等を与信審査に使っている点が大きく異なります。

freeeが提供している「freee会計」が各銀行とAPI連携しているので、freeeには独自の入出金データがリアルタイムで蓄積されます。これを活用することで、従来のカード会社や金融機関では実現できなかった与信ロジックが可能になっているわけです。創業間もないスタートアップや現時点で黒字化ができていない企業であっても、代表者自身の信用力を使わずに、柔軟に高い限度額の設定ができる仕組みを作っています。

2)利用明細はリアルタイムでfreee会計に連携

内山:2つ目は、freee会計とカード利用明細をリアルタイムで同期できることです。これにより、月締め作業をしたいのに利用明細が揃っていないということがなくなり、バックオフィス業務がかなり楽になります。

これまでのカードでは、利用してからWebの利用明細に反映されるまで数日程度かかり、カード会社の締日がくると請求が確定され、その後にfreee会計に連携されるという流れでした。

たとえば、月末締のカード会社であれば翌月6日頃に請求が確定し、それからfreee会計にデータが連携されていたわけです。カードを使ってからfreee会計にデータが入ってくるまでに長いタイムラグが発生していたため、月締めに間に合わない場合は手入力するしかないということが起きていたんですね。

freeeカード Unlimitedは、カードを利用した当日〜3日以内(利用加盟店による)にはfreee会計に明細が連携され、ほぼリアルタイムで同期される仕組みになっています。

このほかにも利用ブロック設定ができたり、利用したらすぐにメール通知が届いたりといった、意図しないタイミングでの利用や不正利用を制御する機能も搭載しています。これらがfreeeカード Unlimitedの大きな特長ですが、今後さらに利便性や使い勝手をよくする機能を付加していきたいと考えています。

――どんな方にどんなシーンで利用してほしいといった、ターゲット層のイメージを教えていただけますか?

内山:スタート段階では、WebサーバやSaaSサービス、Web広告を積極的に活用しながら IPOを目指している企業がメインターゲットになると考えています。この企業層をターゲットとする理由は、freeeをご利用いただいているお客様の中でも、法人カードの限度額アップをもっとも必要としている層だからです。

Web上のサービスはカード決済がメジャーな支払い方法ですが、法人カードの限度額が足りないことが足かせになっている現状があります。とくに、クラウドのサービスを積極的に活用して、広告費もたくさんかけて一気に成長を遂げたいスタートアップやスモールビジネスでは、こうした傾向が顕著です。

開発前に行ったユーザーへのインタビュー調査でも、限度額に課題を感じている企業が9割を超えているという結果でした。限度額が足りないために購入を制限してしまっているケースや、デポジットでなんとか対応しているという声が非常に多かったんです。

freeeカード Unlimitedは、そうした従来の法人カードでは与信がつけられなかったスタートアップや創業から10年以内くらいのスモールビジネス経営者が、Web上のサービスをどんどん使って事業を拡大させたいときに、限度額を気にせずに使ってもらうことをメインユースとして想定しています。

また、ビジネスが成長してくると、煩雑になりがちな会計業務をしっかり行う必要性も出てきます。とくにIPOを目指している場合は、抜かりなく行わなくてはなりません。そういったシーンでも、freee会計にクイックかつ自動的に利用明細が同期される機能が役立つと思っています。

『freeeカード Unlimited』開発の裏側

各銀行口座の入出金データをもとに与信ロジックを組めるのはfreeeならでは

データサイエンティスト 福田 幸太郎さん

――freeeカード Unlimitedを開発しようと考えた背景や経緯を教えていただけますか?

内山:2010年代以降、ビジネスの成長に欠かせないものとしてAWS(AmazonWebServices)や様々なクラウドサービス、Web広告といったネット上のサービスを活用する企業が増え、2015年頃にはその傾向が顕著になりました。

これらのサービスはカード払いが主な支払い方法になりますが、創業間もないスタートアップや創業から黒字化できていない企業は信用力の部分でリスクがあると判断されてしまうため、カードを申し込んでも審査に通らない、または30万円程度の限度額しかつかないという状況がありました。

たとえば、VC(ベンチャーキャピタル)などから資金調達できているようなスタートアップでも、黒字化ができていないと限度額がつかないわけです。事業を成長させるためにこうしたサービスをどんどん活用したいのに、カードの限度額が足りないために不便が生じるという課題が明確にありました。

そこで、freeeが持っているデータを活用して他のプレイヤーとは違った与信モデルを構築すれば、スモールビジネスが成長する助けになると考えました。高い限度額をつけることにこだわっているのも、こうした理由からです。

――いざ開発を進めていくという段階では、様々な壁にぶつかったと思います。とくに難しかったのはどんな点でしょうか?

内山:一つは、カード事業という金融サービスを作る際は一社で完了できないので、いろいろなステークホルダーが関わるという点ですね。決済に関わるサービスを提供しているベンダーのほか、複数の金融機関など、かなり多くのパートナー企業さんと提携することになります。

今回のfreeeカード Unlimitedは、正確で効率的な管理・運用を実現するため、パートナー企業さんの選定はとくに重視しました。何社とも協議して、プロジェクトの成功をしっかり支えてくれるノウハウ・技術を持っているところと提携させていただきました。

もう一つの壁は、セキュリティ回りです。freeeは重要なデータを取り扱っている企業なので、もともとセキュリティに関しては高いレベルで取り組んでいますが、カード番号を扱うカード事業ではさらに高いランクのセキュリティが求められます。

クレジットカード業界のセキュリティ基準として「PCIDSS」というものがあります。ネットワークやシステムの安全性・管理方法などが審査されるのですが、これを取得するのは難しかったですね。

というのは、PCIDSSは昔からある制度で訪問審査などを基準に作られているため、これを今の状況に合わせて、リモート環境でクリアできるように作り変える努力が必要だったからです。それでも、様々な工夫で無事取得することができました。こうした取り組みで取得に成功したケースは日本ではまだないと思うので、新たなやり方を切り開いていくという意味で、freeeらしい取り組みができたかなと思います。

――与信ロジックの構築は、どのように進めていったのでしょうか?

福田:カード会社や金融機関の一般的な与信ロジックは、代表者個人の信用情報や、決算書の内容、社歴といった、いわば過去の実績をもとにあらゆる企業に一律に適用できるようにしているモデルです。

freeeカード Unlimitedは「従来の与信では限度額が不十分なスタートアップやスモールビジネス企業にフォーカスする」という考えのもと始まっているので、そもそもスタート地点が異なっているわけです。従来の与信ロジックとは全く違う形を作ろうとしていたので、そこはチャレンジでしたが、与信に十分なデータを持っているので問題ないと思っていました。

最初に、米・Brex社など海外で新たな法人カードに取り組んでいる先行企業を調査して、与信スキームを参考にしました。くわえて、私自身は金融の専門家ではなく、データ分析の専門家なので、従来のスタンダードにとらわれないフラットな視点で「この会社にお金を貸そうと思ったら、どんなデータで与信するか」というところから考えていき、freeeオリジナルの与信ロジックを構築していきました(特許出願中)。

アメリカには入出金明細をアグリゲートして連携するサービスが普及しているため、入出金データを比較的簡単に利用できます。しかし、日本においては日本中の各銀行口座の入出金データを取得できる企業は限られており、かつ十分な蓄積データをもとに与信ロジックを組める企業は、ほぼ存在しないといえます。freeeでは、freee会計によって国内の各銀行とAPI連携でつながっており、このデータを集積する仕組みがすでに存在していました。これを活用すれば他にはできない形でスモールビジネスを支援できると考えました。

リアルタイムにデータを取得できるという点も、モニタリングの観点で大きな優位性になっています。これを活かしながら、与信ロジックは今後も継続的に進化させていきたいと考えています。

『freeeカード Unlimited』が目指す世界観とは?

スモールビジネスが公平に金融サービスを受けられる世界へ

――今後、freeeカード Unlimitedはどのように進化するのか、どんな世界観を実現したいのか教えていただけますか?

福田:freeeは「スモールビジネスを、世界の主役に。」をビジョンに掲げている通り、freeeらしいサービスというものがあると思っています。たとえば、スモールビジネスを行う上でのちょっとした引っ掛かりをなくしてあげることで、経営がスムーズになったり、成長につなげられたりといったことです。

限度額でいうと、「もう少し上げたいな」と経営者が思うのは事業が拡大していて、もっと利用を増やしたいときですよね。そのときに、わざわざ申請の手続きをしなくても必要なときに必要な限度額まで自動的に上がっていたら、とても便利だと思うんです。

そうした、ちょっとした引っ掛かりを当社がなくしていくことで、スモールビジネス経営者が本業に集中できる状態を作れたらいいなと。カードの上限額を気にしながら経営活動をするというのは本質的じゃない。そうした小石を取り除き、経営に集中できる環境を整えていくのが、freeeらしいサービスかなと思っています。

freeeが持っているデータやノウハウを使いながら、freeeカード Unlimitedをさらに進化させて、スモールビジネスを支援する仕組みを作っていきたいですね。

内山:現在は、金融サービスとしてのシステムやオペレーションのキャパを慎重に拡大しており、原則として、利用できる企業を20名以上またはVC調達ありの企業に限って提供しています。今後は「スモールビジネスを、世界の主役に。」というビジョンを実現すべく、広くスモールビジネスの皆様 に提供できるようにしていく予定です。

ビジネスの規模・フェーズ・業種等によっても課題やニーズは変わるため、freeeカードもこれらに合わせて提供すると思います。

とくに金融サービスにおいては、大手企業に比べるとスモールビジネスは十分なサービスを受けられていない状況があります。今回、私たちが取り組んだのは、従来のカード会社や金融機関が与信や限度をつけられなかった企業に対して、freeeが持っているユニークなデータを用いて、ユニークなやり方で与信・限度をつけるということです。

本来、限度を与えるというロジックは平等であるべきというのが私の考えで、今回はカード事業としてこれを実現しましたが、ここで得た知見・ノウハウは、今後違った形のサービスとしても具現化していきたいと思っています。

スタートアップやスモールビジネス経営者、あるいはそうした企業で働いている従業員にも視野を広げて、平等に金融サービスが受けられる世界を創りたいというのが私の思いです。今回のfreeeカード Unlimitedを足掛かりに、そうした世界観をどんどん実現していきたいですね。

(インタビュー:土井 啓夢 文:社 美樹)

「freeeカード Unlimited β版」への申し込みはこちら

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出版社に18年勤務。編集長、メディア設計、営業統括、システム開発PMと畑違いの職務で管理職を経験。現在は数々のメディアで企画・編集・執筆を手掛ける。得意領域は実践も積んでいるメディア企画系、人事・マネジメント系、ビジネス系、医療・美容系。インタビュー経験は200件以上。Webライティング講師も務める。

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