小売業の融資|資金繰りが悪化するケースと改善のポイント・資金調達の方法

これまで小売業は現金商売が主でしたが、キャッシュレス決済の広がりにともない、資金繰りが複雑になっている現状があります。また、景況感や流行、季節の影響を受けやすい業種のため、在庫管理を徹底する必要があります。ここでは、小売業で起こりがちな資金繰り悪化のケースを見ていくとともに、運転資金の調達方法や審査のポイントを解説します。
目次

小売業で資金調達が必要になる場面

小売業で資金調達を検討すべきケースとはどのような状態なのか、具体的に見ていきましょう。
小売業で起こりがちな資金繰り悪化のケース
一般に資金繰り悪化とは、入金よりも出金が多くなり、事業活動で得られた利益で必要経費が回らないことを指します。小売業では、次のようなケースで資金繰りが悪化することがあります。
- 季節により仕入価格や販売価格が変動し資金が必要になる
- 一括仕入れにより資金が必要になる
- 支払いと回収サイトのズレにより資金が必要になる
- 不良品販売による回収コストにより資金が必要になる
季節商品を販売している場合、仕入れ値が高騰したり、需要期が過ぎて販売価格が下降したりすることがあります。そのため、仕入れや販売時期を見誤ると、資金繰りに大きな影響を与えることになります。また、売れ筋の商品を一括仕入れして、売上拡大を狙うケースもあるでしょう。しかし、多量の在庫を抱えることになるため、現金化できない状態が長期化すると資金繰りが悪化する可能性が高まります。
小売業の場合、仕入れから現金化までに時間がかかるため、支払いと回収のタイムラグが大きくなるとスポット的に資金が回らなくなることもあります。また、万が一不良品を販売してしまった場合、想定していなかった回収コストが発生し、資金繰りに困窮するというケースもあります。
その他資金調達が必要となるケース
小売業に限らず、事業を行っていると以下のような場合も資金調達が必要になることがあります。
- 取引先が倒産した→売掛金・受取手形の不良債権化
- 従業員が退職した→予期しない退職金支払い
- 災害や事故→在庫毀損や損害賠償責任
このように、予期しない突発的な要因で資金繰りが悪化するケースがあります。また、過度な設備投資による資産の固定化など、見通しの甘い長期投資が資金繰り悪化を招くこともあるため、投資計画は慎重に検討する必要があります。
小売業の資金繰りのポイント

小売業の資金繰りが悪化する要因では、仕入れから販売までのタイムラグが大きいこと、また過剰在庫が引き起こしている場合が多くなっています。改善するには、以下の点に取り組むことが重要です。
- 支払いから回収までの期間を短くする
- 仕入の見直し・在庫管理の徹底
- 突発的要因に対応できるだけの流動性資産を持つ
それぞれについて詳しく解説していきます。
支払いから回収までの期間を短くする

仕入れ代金の支払いから売上回収までの期間が長期になると、経営上は黒字であっても手元に現金がない状態が続きます。最悪の場合、支払いができず黒字倒産に至ることもあります。
例を見てみましょう。
例)
仕入れ→翌月末に支払い
売上→仕入れから2カ月後に計上
売掛金の回収→売上計上の2カ月後
この場合、仕入れ代金の支払いから現金化までに3カ月かかっていることになり、3カ月分の所要運転資金が必要になります。3カ月後に入金があることがわかっていても、その間に支払いができなければ倒産してもおかしくない状態にあるということです。
また、売上が増えれば資金繰りが安定すると考えがちですが、仕入れ代金も増すため、所要運転資金の額も大きくなるという点に注意しなくてはなりません。これをまかなうだけの運転資金が手元になければ、売上が伸びても資金繰りが苦しくなるという状況が起こります。
そのため、資金繰りを改善するには、支払い・回収のサイクルをしっかり把握するとともに、支払いはできるだけ遅く、回収はできる限り早くする取り組みが基本となります。支払い・回収のサイクルが短くなるほど、所要運転資金が小さくなり資金繰りが改善されるということです。
仕入の見直し・在庫管理の徹底
小売業においては、在庫管理を徹底しなければ資金繰りが悪化します。なぜなら、倉庫で眠っている状態が長くなるほど手元の現金が減っていくためです。在庫期間が長すぎる、または在庫を増やすスピードが速すぎる場合、対策を取る必要があります。
まずは自社の在庫状況を正しく把握したうえで在庫回転率を高め、現金化のサイクルを短期化・効率化しましょう。長期間動いていない在庫や価値のない在庫(不良品等)は、不良在庫として計上しておくことも在庫管理をする上で重要です。とくに賞味期限・消費期限のある商材を扱っている場合は、過剰在庫が資金繰りを悪化させる原因となるため注意しましょう。
突発的要因に対応できるだけの流動性資産を持つ
事業を運営する中では、突発的な要因による支払いに対応しなくてはならないこともあります。そのため、現預金やサイトの短い売掛金など流動性の資産を持っておくことが必要です。
流動性資産を増やすには事業利益を出し続けることが前提ではありますが、急きょ資金が必要となった場合には、融資やファクタリングなどによる資金調達を検討する必要があります。
小売業の運転資金の調達方法

小売業の運転資金の調達には以下のような方法があります。
・銀行融資
・日本政策金融公庫融資
・ビジネスローン
・ファクタリング
それぞれについて詳しく解説します。
銀行融資
銀行によって条件は異なりますが、大まかな傾向を以下にまとめました。
借入金額 | 比較的多額の借入が可能(決算内容や資金使途によって異なる) |
---|---|
金利 | 1.0~3.0%程度(金融機関により異なる) |
融資スピード | 最低1週間程度かかる |
審査の難易度 | 比較的高い |
連帯保証人 | 原則、法人代表者のみ |
担保・保証会社 | 信用保証協会等の保証会社が付く場合あり不動産を担保に取る場合あり |
●メリット
・資金使途によって多額の借入が可能
・金利はビジネスローンやファクタリングと比較して低め
・法人の場合、原則連帯保証人は代表者のみ。個人事業主の場合は不要
●デメリット
・融資までに時間がかかる
・審査の難易度が比較的高く、事業計画が必要になる
・信用保証協会の保証を付ける場合は、保証料が別で必要になる場合がある
資金調達方法の中では比較的低めの金利で借入できますが、初の与信取引の場合や、資金繰りが悪化してからの融資相談は時間がかかることが多くなっています。資金ショートまで余裕がある場合は、銀行融資も検討してみるとよいでしょう。
なお、事業口座を持っている金融機関に相談するほうがスムーズに話が進みます。まずはメインバンクに相談してみましょう。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫には、小規模事業者向け、中小企業向けの様々な融資制度を設けています。制度によって内容は変わりますが、大まかな傾向を以下に整理しました。
借入金額 | 比較的多額の借入が可能(決算内容や資金使途によって異なる) |
---|---|
金利 | 1.0~3.0%程度(融資制度や条件により異なる) |
融資スピード | 最低1週間程度かかる |
審査の難易度 | 普通 |
連帯保証人 | 原則、法人代表者のみ |
担保・保証 | 保証は原則なし不動産等の担保を取る場合あり |
キャッシュレス決済に対応するための融資制度も設けられているため、必要に応じて検討してみるとよいでしょう。
対象 | 卸売業・小売業・飲食業・サービス業を営む事業者キャッシュレス決済(クレジットカード・電子マネー・QRコードなど)の導入により生産性向上を目指す事業者 |
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資金使途 | キャッシュレス決済に対応するために必要な運転資金(長期) |
限度額・利率 | 小規模事業者:4800万円(基準金利-0.4%)中小企業:2億5000万円(基準金利-0.4%) |
●メリット
・銀行融資と同等のレートで借入ができる
・審査の難易度は銀行融資と比較すると低め
●デメリット
・融資まで時間がかかる
・税金を滞納している場合、融資は受けられない
日本政策金融は国が100%出資している金融機関です。一般的に中小零細企業者を対象に融資しており、銀行ローンと劣後しない好条件で借入ができます。また、比較的審査も通りやすく、事業者の最後の砦といわれることもあります。
ただし、日本政策金融の原資は「税金」ですので、事業税や消費税、その他税金を滞納している場合は融資を受けられません(延納を除く※)。とくに事業年数が浅く信用が低い企業や中小零細企業は、一度日本政策金融公庫に相談するのがよいでしょう。
※一般の金融機関でも納税証明書の提出が求められる可能性はあります。また、信用保証協会の保証が付く場合は税金滞納の有無を確認されます。
ビジネスローン
ビジネスローンとは、事業資金に使途を限定した事業者向け融資のことです。取り扱っている金融機関には銀行、信販会社、消費者金融があります。以下に金融機関ごとのビジネスローンの特徴をまとめました。
銀行 | ・一般的な銀行融資よりも金利は高くなるが、審査の難易度は下がる・融資限度額は大きいが、信販会社・消費者金融に比べると審査は厳しい・審査期間は3~5営業日程度が多い |
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信販会社 | ・銀行のビジネスローンより審査の難易度は低め・最短で即日融資も可能・金利は5.0~18.0%と高い(条件によって変動) |
消費者金融 | ・銀行や信販会社のビジネスローンより審査の難易度は低め・最短で即日融資も可能・金利は6.0~18.0%と高い(条件によって変動) |
ビジネスローンは借入までの期間が短く、急な資金繰り悪化に対応できるというメリットがあります。半面、金利は高めに設定されているため、多額の借入には注意が必要です。金利の支払いで元金がほとんど減らず、さらなる資金繰り悪化を招く可能性もあります。借入時は、しっかりとした返済計画を立てることが重要です。
ファクタリング
ファクタリングとは、手元にある売掛債権をファクタリング会社に売却して現金化する手続きのこと。例えば、売掛金の回収が2カ月後だった場合、これを待たずに即現金化できるという仕組みになっています。
自社とファクタリング会社のみで行う契約を「2社間ファクタリング」、売掛先も含めた契約を「3社間ファクタリング」といい、それぞれに手数料が大きく異なります。
2社間ファクタリングの手数料相場は、売掛債権の10~20%程度が相場です。3社間ファクタリングでは、2~10%程度が多くなっています。手数料に幅があるのは、ファクタリング会社にとっては3社間ファクタリングのほうが、未回収リスクが下がるためです。
ファクタリングのメリット・デメリットは以下のようになります。
●メリット
・与信取引ではないので、信用情報が悪くても利用できる
・即日入金も可能
・連帯保証人や担保、保証会社等も不要
●デメリット
・手数料が高い
・売掛債権範囲内しか利用できない
手数料は発生しますが、信用情報に関係なく資金を確保できるのがファクタリングのメリットです。今すぐに現金が必要というときの資金繰りの方法として、選択肢の一つとなっています。
審査に通るためのポイント

融資を受ける際に、とくに注意しておきたい審査のポイントを3つ紹介しましょう。
資金使途を明確に
金融機関が融資をする際に重視するのが「何に使うのか」という点です。資金使途がはっきりしていない場合、融資をすることはできません。
例えば運転資金の場合、資金使途が「人件費等諸経費」であっても、「どの程度人件費がかかっているのか?」「諸経費とは具体的に何か?」といった質問に答えられなければ、審査を通過する可能性は下がります。
資金使途がはっきりしていないのは、経営者自身が「なぜ資金が足りなくなっているのか」を把握していないということです。本当に必要な資金額を把握できていなければ、正常な資金繰りに戻すことも難しくなります。まずは、何にお金が必要になっているのかをしっかり把握しておくことが大切です。
返済計画をしっかり立てる
お金を借りる以上、しっかり返せるという根拠がなければ融資の審査に通ることはできません。返済能力に問題がないことを証明するうえで、返済計画を作ることが求められます。
・月に売上がいくらあるのか
・月にどれくらいの仕入れや経費の支払いがあるのか
・支払い後の利益で返済することは可能か
上記の内容を具体的にし、返済できる根拠を示す必要があります。例えば、売上であれば「一日の来店客数×客単価×営業日数=月の売上見込み」のように、数字として見せることが重要です。経費は、過去の実績をもとに算出するとよいでしょう。
資金繰りを把握する
返済計画を立てる際は、収支計画書を作成する場合が多いですが、売掛金の割合が多いときは資金繰り表も作成することをおすすめします。
資金繰り表は売上や経費の金額ではなく、実際に現金としていくら入って、現金としていくら出ていくのかを示す表です。つまり、売掛・買掛や、約束手形などの動きではなく、実際の現金の動きを示したものになります。日次・月次・年次で作成する方法がありますが、金融機関から融資を受ける際は、過去の実績と数カ月先までの資金繰り予測が求められる場合があります。
このときに留意したいのは、借入金によって資金繰りが改善され、返済できることがわかるようにすることです。当然ながら、予測した資金繰り表で返済が難しいと判断されれば融資の審査は通りにくくなります。
資金繰り表をもとにしっかりお金の出入りを管理することは、黒字倒産を防ぐことにつながるため、普段からしっかり取り組みましょう。
資金調達には「freee資金調達」の利用がおすすめ

小売業の資金調達には様々な方法があります。しかし、事業の現状をしっかり把握し、適切な資金調達方法を選ばなければ、逆に資金繰りが悪化する可能性も生まれてしまいます。
そこで、おすすめしたいのが「freee資金調達」の利用です。事前に事業データを入力するだけで、自社に適した資金調達の手段や金融商品を見極めることができます。AIによる診断で、賢い資金調達方法を選択することが可能です。
【データ内容】
・事業形態
・事業の所在地
・資金調達の希望金額
・資金調達手段を選ぶうえで重視する点
・代表者保証の有無
・来店希望の有無
・最短即日での審査結果回答希望の有無
・売掛金を現金化することを選択肢に含めるかどうか など
以上のデータを入力することで、自社にぴったりな手段を見つけられます。複数の資金調達方法を調べる手間が省けるうえ、金利や手数料率も手軽に調べることが可能です。
まずは自社がどのような状態にあるかを把握し、最適な資金調達方法を見つけることが大切です。融資の可能性を自動診断する機能も備え、資金調達に悩んでいる経営者をサポートします。ぜひ気軽に「freee資金調達」をご利用ください。
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